はじめに
TIG DXユニットの住です。エネルギー業界に詳しくなろうとテーマのもと、LPガス業界に引き続き、電力業界についても少し触れていきます。電力業界の超入門編として、ご覧いただければ幸いです。
電力事業の役割
電力事業には、「発電」「送配電」「小売」の大きく3つの役割に分類されます。
この3つの役割が揃ってこそ、我々は電気を利用できます。
電力事業 | 役割 |
---|---|
発電 | 自らが維持、運用する発電用の電気工作物を用いて電気を発電する役割 |
送配電 | 発電所でつくった電気を使う場所まで運ぶ設備を運営する役割 |
小売 | 一般家庭やビル、工場などに電気を販売する役割 |
電力自由化とは
戦後の電力不足から、高度成長を達成するために、大手電力10社1(一般電気事業者)による「発電」から「送配電」、需要家2への「小売」までの地域独占を認めてきていましたが、環境の変化に伴い、電力事業の高コスト体質が問題視されるようになり、段階的に、より公平に競争し、かつ安定供給にも平等に責任を負う状態(自由に電力会社を選べる状態)へと変化してきました。
以下に、「1.電気事業法改正」「2.電力システム改革」の大きく2段階に分けて、電力自由化までの流れを記載します。
1.電気事業法改正
- 一般電気事業者に対して、新規参入者のシェアを増やすことを目的とした改革
(1)発電の自由化(1995年)
- 独立系発電事業者(IPP=Independent Power Producers)として、「発電」への参入が可能となる
(2)大規模需要家への電力供給自由化(1999年)
- 特定規模電気事業者(PPS=Power Producer and Supplier)として、「小売」への参入が可能となる
- 「特別高圧(2000kW/20000V以上)」の需要家向けの「小売」が可能となる
(3)中規模需要家への電力供給自由化(2003年)
- 特定規模電気事業者(PPS=Power Producer and Supplier)の対象が拡大される
- 「高圧(50kW/6000V以上)」の需要家向けの「小売」が可能となる
2.電力システム改革
- より公平に競争し、かつ安定供給にも平等に責任を負うことを目的とした改革
(1)安定供給を確保する
(2)電気料金を最大限抑制する
(3)需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する
(1)電力広域的運営推進機関(OCCTO3)の設立(2015年)
- 全国規模で平常時・緊急時の需給調整機能を強化する目的で設立
- どこかのエリアで供給不足が見込まれた場合には、他エリアの電気事業者に対して融通指示を行う
- 中長期的な電力の安定供給のため、需給バランス評価を行い、必要に応じて経済産業大臣に意見を行う
- 電力系統の公平な利用環境の整備のため、入札価格の低い順に利用を認めるルールに移行
(2)小売及び発電の完全自由化(2016年)
- 「低圧(50kW未満)」の需要家向けの「小売」が可能となる
- これに伴い、特定規模電気事業者(PPS)、独立系発電事業者(IPP)の区分が無くなる
(3)送配電の法的分離(2020年)
- 送配電部門の中立性を高めるために「会計分離」から、送配電部門を別会社化する「法的分離」へ移行
- これにより、送配電事業者は発電事業や小売電気事業を営むことが禁じられる
- 但し、送配電事業者が離島供給を行うために発電事業を営むことは、例外的に認められている
電気事業者の枠組み
電力自由化に伴い、電気事業者の枠組みについても見直され、それぞれに必要な規制が課せられています。
それぞれ、経済産業大臣への登録、届出、許可が必要となります。
ちなみに、よく耳にする「新電力」とは、当初、特定規模電気事業者(PPS)のことを指していましたが、
現在は、一般的に、大手電力10社以外の 新規「発電」事業者、新規参入「小売」電気事業者のことを言います。
安定供給にむけたメカニズム
電気の特性上、作った電気の貯蔵ができないため、発電量(供給)と消費量(需要)のバランスを常に取り続ける(周波数を一定に保つ)必要があります。このバランスが崩れると周波数が乱れるため、安全装置が作動して発電所などが停止し、大停電(ブラックアウト)が発生する可能性があります。電力自由化に伴い電気事業者が増えるなかでも、安定供給に対して平等に責任を負う仕組みを取り入れています。
※画像は https://www.enecho.meti.go.jp/ よりちなみに、北海道胆振東部地震で、大停電(ブラックアウト)が発生したのは、震源近くの発電所が故障で停止したことに伴い、周波数が乱れ、立て続けに発電所が停止したことにより発生した事象です(その他、送電線が切れたなど複数の事象も重なっています)
1.バランシンググループ
- バランシンググループとは、送配電ネットワークを利用する事業者の集合体を示す概念であり、需要バランシンググループと発電バランシンググループの2種類がある
種類 | 仕組み |
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需要バランシンググループ | 1つ以上の小売電気事業者(代表契約者を選定)と一般配送電事業者が接続供給契約を締結する仕組み |
発電バランシンググループ | 1つ以上の発電事業者(代表契約者を選定)と一般配送電事業者が発電量調整供給契約を締結する仕組み |
- バランシンググループのメリットは、スケール感を活かして、インバランス料金を支払うリスクを低減させること
- 需要バランシンググループのメリットとしては、調達や需給管理の一元化なども考えられる
2.同時同量
- 同時同量は、電力の供給と需要を絶えず一致させることで、バランシングとも言う
- 系統運用者(一般配送電事業者)は、瞬時の同時同量を行う一方で、バランシンググループ(新電力)が行うのは、30分同時同量である
(1)30分同時同量
- 30分同時同量とは、瞬間的な供給と需要がずれても、30分間の総量(kWh)で計画値に合致していればよい
- 計画値(計画値同時同量)は、実需要の1時間前に、電力広域的運営推進機関(OCCTO)へ提出する必要がある
- 計画値同時同量との乖離のことをインバランスと言い、±3%の乖離が発生した場合は、乖離に伴いインバランス料金4を支払う
(2)調整力
- 調整力は、インバランス発生時に、系統運用者(一般送配電事業者)がコントロール可能な発電設備や需要設備のことである
- 各系統運用者が公募入札により調整力を調達してきたが、2021年4月からは、「需給調整市場」という全国一体的な市場で取引する制度が開始されている
- 調整力は、発電機の信号に対する反応速度や起動にかかる時間などで分類されている
- これらを駆使して、瞬時の同時同量を実現している
- 分散型エネルギー資源(DER)5の調整力への活用に向けた仕組み作りが進められている
ちなみに、最近、話題となっている「電力需給逼迫注意報」は、調整力のひとつでもある供給予備率が、3~5%となる見込みの場合に発令され、安定供給に最低限必要とされる3%をも切る場合は、「電力需給逼迫警報」に切り替えられます(通常は、7~8%を保持しています)
まとめ
電力業界の超入門編として、電力自由化までの流れと電気事業者の枠組み、電気の特性を踏まえた上での安定供給に向けたメカニズムについて、簡単に触れさせて頂きました。
このような状況のなかで、カーボンフリーなど環境問題への意識の高まりや、テクノロジーの進歩により、従来の電力事業の枠組みに囚われない新たなビジネス展開の可能性が広がっていると考えます。
その一角を担う、超大型蓄電池や再生可能エネルギー資源など、分散エネルギー資源をアグリゲートする技術、需要側との双方向制御を可能とするスマートグリッド技術など、折を見て、紹介していければと思います。
- 1.東京電力、関西電力、中部電力、東北電力、九州電力、中国電力、四国電力、北海道電力、北陸電力、沖縄電力 ↩
- 2.電気の供給を受けて使用している者 ↩
- 3.Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN ↩
- 4.発生した差分に対して、系統運用者(一般送配電事業者)が不足分を補填、もしくは余剰分を買取した費用をインバランス料金として精算 ↩
- 5.分散型エネルギー資源(DER)とは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー、電気自動車など、電気が使用される場所の近くで、発電・供給される小規模なエネルギー源のこと ↩