はじめに
はじめまして。Future・TechnologyInnovationGroup(TIG)の荒井です。
この記事はエネルギー業界のドメインに詳しくなろうという試みの一環で、LPガス業界の超入門編を踏まえて、バルク貯槽を用いたLPガス供給の入門編を紹介していきます。今回は、バルクとは何か、バルクによるガス供給の流れ、抱えている問題について紹介します。
LPガスとその用途
LPガスとは
「Liquefied Petroleum Gas」の頭文字をとってLPガスと呼ばれています。
種類はプロパンとブタンの2種類があり、主に一般家庭ではプロパンが使われています(ブタンの利用で身近なものは、例えばタクシーの燃料などに利用されたりします)
LPガスの消費者は民生/産業用の大きく2種類に分けられ、民生向けは一般家庭以外にも飲食店や医療施設など、産業向けには自動車や造船などの加工・組立産業、太陽電池や半導体などエレクトロニクス産業など、様々な消費者へ供給しています。
※画像はhttps://www.lpgc.or.jp/images/LPgasgide2022.pdf より
一般家庭での用途
イメージしやすいところで、一般家庭での用途は、ガスコンロや給湯器といった生活に欠かせないエネルギーとして広く利用されています。
※画像はhttps://www.lpgc.or.jp/images/LPgasgide2022.pdf より
LPガスの流通経路
このように様々な用途で利用されているLPガスはどのように流通しているのでしょうか。
LPガスの7~8割は海外から原油を輸入・精製し、二次基地や充填所などを経由して消費者に届けられます。
LPガスを貯蔵する設備と供給方法
LPガスを貯蔵する設備は主に2種類あります。
1つ目は、一般家庭でおなじみの「ボンベ」。2つ目は、なじみは薄いですが、集合住宅や飲食店などLPガスを多く利用する消費者に向けた「バルク」というものがあります。
この2つの大きな違いは、供給方法にあります。ボンベは空になると満タンのボンベと容器1ごと交換しますが、バルクは軒先に固定されているため交換ができません。バルクローリーという車両でガスを運び、直接補充(充填という)します。
【ボンベとバルク】
※画像は以下より
http://godo-gas.co.jp/godo-gas/
http://www.nichidankyo.gr.jp/toku/chapter07/pdf/ch07_07.pdf
【バルクローリー】
※画像はhttps://www.khk.or.jp/Portals/0/resources/information/others/dl/2017LPpoint.pdf より
LPガス供給までの流れ
集合住宅を例にして、LPガスが消費者に届くまでの流れをイメージしてみます。
(1)はじめに、アパート等を所有する大家さんとLPガス供給会社で無償貸与契約を結んだあと、(2)LPガス供給会社が所有する容器(ボンベ・バルク)を集合住宅(需要場所)に設置します(3)入居者はLPガス供給会社と小売契約を結び、LPガス供給会社から定期的にガス供給を受けます(入居者はガス使用量に応じた料金を支払う)
バルク配送入門
配送業務の流れ
バルクを需要場所に設置した後、日々の配送業務はどのように行われるのでしょうか。
LPガス供給会社は、抱えている供給先の需要を予測しながら、以下のような業務を行っています。
(1)ガス仕入
年間計画に基づき、一定期間分(年間・月間など)の大枠の仕入量を卸会社と契約します。日々の配送により、ある程度精緻な仕入量が分かった段階で基地にガスの払い出し量を通知します(例えば3日ごとなど)
(2)配送計画
日々の配送で充填したガス量と各消費者の需要を予測し、一定基準の残量に減るタイミングで配送を予定します。
(3)ガス充填
配送計画に基づいて、配送員はバルクローリーを運転して、需要場所に移動しLPガスを充填します。
(4)保安点検
配送員は充填と合わせて、法律で定められた保安点検を行います。
火気と適切な距離がとられているか、ガス漏れしていないか、設備に腐食がないか、などの点検を行います。充填における点検は設備によって3つの法律(液石法・簡易ガス法・高圧法)で管理されており、それぞれ法定点検の内容が変わります。
バルク配送の特徴
1.運送業としての特徴
LPガスを配送する業務は、運送業に分類されます。
バルクの配送はボンベと比べ、供給先が少ない一方で供給先が離れており配送距離が長いという特徴があります。また、貯蔵量と需要量が大きく、日に何度か充填工場に立ち寄り、車両にガスを継ぎ足しながら配送を行います。
2.基地・充填工場の特徴
車両のガスを継ぎ足す際に立ち寄る基地・充填工場には、様々な制約があります。
利用できる時間が夕方までと早かったり、回数制限や車両の大きさに制限があったりします。配送計画はこういった複雑な条件を加味しながら立てることになり、属人化につながりやすくなります。
3.配送員の特徴
バルクの配送員は、民生用バルクローリ(充てん設備)で、LPガスのバルク供給設備への充てん等の作業を行うため、「充てん作業者」という国家資格の取得が必要になるエッセンシャルワーカーです。
バルクの配送員は基地・充填工場の利用時間制限に合わせて配送するため、始業が早くなる場合が多いという特徴もあります。
4.バルク供給設備の特徴
バルク供給設備には定期検査を行う必要がありますが、初回の検査までの期間が20年とかなり長いという特徴があります。初回検査後は、5年ごとに再検査が必要になります。
5.供給先の特徴
バルクは民生/産業用と広く利用されますが、使用量が比較的多い場合に利用されることが多く、その使い方も常に使用量が多い場合や突発的に使用する場合など様々です。
ある日突然使用量が急増するような場合、需要を予測することが難しくなるため、そういった顧客については、残量警報器を設置しているというのもバルクの特徴になります。
残量警報器は、一定の残量率を下回ると電話回線を通じてFax等で配送を行う会社に通知してくれる仕組みです。
6.配送料金の仕組み
バルク配送における配送料は、主に2つの考え方があります。
1つ目は、充填した量に応じて請求を行うもの。2つ目は、消費したガス量に応じて請求を行うものです。
バルクのかかえる課題
前述の「運送業としての特徴」で触れた配送距離が長いという特徴が、バルク配送の課題になっています。配送距離が長いということは、拘束時間が長くなり、長時間労働へ直結することになります。
バルク配送に限らず、ヤマト運輸や佐川急便といった荷運びの運送業でも同様で、政府としてもこの問題に対応すべく、2024年から働き方改革が施行されます(下表、自動車運転の業務の猶予期間が終わる)
2024年問題の概要
2024年問題とは時間外労働の上限規制によるトラック等ドライバーの労働環境改善です。
配送員には年間960hの労働時間キャップが設けられます。
施行前にくらべ、配送できる量が制限されることになり、運送会社(LPガス供給会社)の観点では、配送料の値上げをして売上・利益を維持するか、売上利益を減らして顧客を維持するか、迫られることが懸念されます。
また、ドライバー(配送員)の観点では、走行距離が減少、結果運行手当が減るため収入減少につながり、離職が増えるという問題への発展が懸念されます。
この問題を解決するためには、昨今叫ばれている配送シェアリングといった仕組みを業界として取り入れていくなど、早急な対応がLPガス供給会社として生き残るための課題になると考えます。
次回はこの課題について背景や今後の展望に触れていきたいと思います。
- 1.LPガスを入れる器を容器と呼ぶ ↩