フューチャー技術ブログ

デザイン思考におけるViabilityとFeasibilityの壁

はじめに

TIG DX-Unitのミンです。

DXアプローチ連載2本目として本記事では、デザインワークを用いたサービス設計・プロダクト設計をする際に考慮すべき3つの観点についてご紹介し、その文脈の中でフューチャーのデザインワークはどのような立ち位置にいるのかについて考えてみたいと思います。

Desirability, Viability, Feasibility

デザイン思考は、Desirability(有用性)・Viability(持続可能性)・Feasibility(実現可能性)の3要素を全て満たすソリューションを生み出すことがゴールだと言われています1

ユーザのニーズに応え、ビジネス的に実行・持続可能で、技術的にも実現可能なサービス・プロダクトこそ、誰もが追求するアイデアの理想像だと言えるのではないでしょうか。逆に、常にこの3つの観点からアイデアを策定・検証してい行かないと、アイデア具現化の過程におけるコストや失敗のリスクを増加させることになってしまいます。

1. Desirability(有用性)

「ユーザに必要とされているサービス・商品なのか?」「誰かの課題を解決しているのか?」「他に良い既存商品やアイデアないのか?」等の質問に答えるのが最初の観点である「Desirability」(有用性)の役割です。

有用性のないサービス・商品は市場価値もなく、人々から求められないので、もちろん売れません。サービスデザイン・プロダクトデザインは「こんなものがあったらいいな」等のニーズや需要から始まることが多く、有用性の検証がデザインワークの起点になると言っても過言ではないでしょう。そのため、必然的にデザインプロセスの多くは、市場調査やユーザインタビュー等、UXデザインプロセスでいう「Understand」(理解)や「Empathize」(共感)のフェーズから行われます。

アボカドトーストをどこでもいつでも… どれぐらいニーズがあるのでしょうか?(個人的には欲しい)
出展:@UNNECESSARYINVENTIONS/INSTAGRAM

2. Viability(持続可能性)

直訳すると「実行可能性」、少し捉え方を変えると「持続可能性」とも言える「Viability」は商品・サービスが問題なく展開でき、継続的に価値を提供できるかどうかを考察する観点です。

利益を確保できるビジネスモデルの設計や各ステークホルダーの理解を得る等、ビジネス観点からの短期的な考察はもちろん、「ターゲットユーザにとって現実的なプライシングになっているのか」「社会・自然環境への負担はどれぐらいあるのか?」等、顧客や社会的評価の視点からも考えたうえで、長期的な持続可能性の確保が必要です。

若い利用者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすと指摘されたInstagram… 持続可能なビジネスモデルか?
出展:ROYAL SOCIETY FOR PUBLIC HEALTH

「ユーザのニーズには確実に応えられているけど、ビジネスとしてmake senseしてるんだっけ?」と、「Desirability」を担保した後、最初に直面する壁の1つだと言えるのではないでしょうか。

例えば、ユーザ観点から見るとどれも「お得にサービスを利用できる」クーポン、ポイントとロイヤリティの仕組みですが、ビジネス観点から見た場合、企業の状況・商品の性質によってどれを採用した方が新規ビジネスとしての「持続可能性」を確保できるかが変わってきます。

一般的に、クーポンやポイント還元は新規顧客獲得に効果的と言われていますが、商品が安く見えてしまうデメリットがあります。クーポンやポイント還元の販促手段を使えば短期間での新規顧客獲得、売上増加を実現できるかもしれませんが、その商品・サービスの売りがブランド・高級感だった場合、もしかしたらロイヤリティの仕組みでより優越感を得ることができるインセンティブ(例えばヘビーユーザーだけに案内される特別なサービスを受けられる等)を提供した方が長期的な「持続可能性」に繋がるかもしれません。

3. Feasibility(実現可能性)

最後の観点である、「Feasibility」はアイデアを実現するためのリソース・技術が十分であるかを確認するための「実現可能性」です。

「ビジネスアイデアを形にするための技術は存在するか」「開発するための人材が揃っているか」「開発技術にかかるコストはどの程度か」等、アイデア具現化の段階で明らかにしないといけない技術的な課題は多くあります。デザインプロセス開始直後は、技術的な制約に囚われすぎずに、アイデアを発散させることは重要です。その一方で、後続のステップで発生するリスクとコストをミニマムに抑えるには、早い段階からアイデアの実現可能性を把握することは不可欠だと言えます。

瞬間移動、実現したいですね
出展:COKADA/GETTY IMAGES

筆者の経験上、多くのコンシューマー向けのビジネスアイデアは、瞬間移動等SF的な技術さえ要しなければ、理論上大抵は実現可能です・・・お金と時間が無限にあれば。そのため、殆どの場合、デザイン段階での「実現可能性」に関する問は、「物理的に実現できるのか?」というピュアな意味合いよりも、「実現するにはどのぐらいコストがかかるのか?」や「費用対効果はどの程度なのか?」等、Viabilityへの影響に絡んだ側面の方が強いと感じます。

例えば、「ガソリンスタンドでの決済が手間」というペインポイントに対して、「生体認証を用いた決済方法」というソリューションを提案した場合、「実現可能か?」と言われたら、それはもちろん技術的には実現可能です。

しかし、それよりも「生体認証を導入するためのコストはどれぐらいか?」「スタンドの既存システム、ユーザの既存アプリを活用した場合リリースを早めることはできるか?」等の問を起点に検証した方が、「生体認証」が「決済の手間」に対しての最適なアイデアかどうか、見極めやすいでしょう。

ViabilityとFeasibilityの壁

前段で申し上げた通り、サービス設計の前半はUXデザインプロセス等を通して「Desirability」(有用性)を担保できることが多いと思います。ただ、プロジェクトが後半に進むにあたり、「Viability」(持続可能性)と「Feasibility」(実現可能性)の確保に苦しまれるチーム・企業は少なくないのでは。

それもそのはずで、「Desirability」の検証はその企業が既存で持っている業界の知見やユーザ基盤があれば、ある程度推進できます。しかし、「Feasibility」を策定・検証するためのノウハウや、アイデアを実現するための人材・技術力は誰もが持っているわけではありません。そして、「Feasibility」を確認できなければもちろん、アイデアの実現性・説得性は下がり、「Viability」の検証と確保も困難になります。

実際に、筆者が過去一年間で携わったデザインワークプロジェクトの内、凡そ半数が「Desirabilityは自社で確保したが、先に進められない」状態でお客さまからご相談を受けました。

フューチャーが実施するデザインワークの強み

フューチャーでは「一気通貫」という言葉が提案の場だけではなく、社内の会話でも良く飛び交います。
筆者自身、あまりこの言葉を安易に使わないようにしていますが、デザインワークの段階でビジネスとアーキテクチャ両軸でのアプローチができることこそ、グラウンドデザインからシステム設計・開発・運用保守までできるフューチャーが実施するデザインワークの最大の強みだと言えます。

技術のバックボーンによる実現性の高いビジネス設計

フューチャーのデザインワークは、ユーザが触れる表面的な部分だけではなくシステム全体の根幹であるアーキテクチャまで策定しながら進めるため、UXデザインの各過程で実現性に意識を配りながら創出したアイデアの具現化ができます。また、フューチャーは技術的チャレンジに対するフットワークが軽く、必要に応じて技術検証を通して実現可能性を高められます。

この技術のバックボーンにより、実現性の担保されたサービス設計が可能になり、リスクをミニマムに抑えることができるというのが1つ大きなポイントだと考えます。

システム導入までに持っていけるスピード感

筆者が参加したデザインワークプロジェクトの殆どは、単にビジネスのビジョンを構想するだけではなく、実際に同時並行してアーキテクチャ(非機能・機能)も考えて進めます。

既存システム(基幹システムや周辺システム)の把握と活用も考慮し、全体最適の観点でデザインワークを推進するため、ビジネス検討からシステム導入へと移るコストと時間を抑えることができます。

サービスを立ち上げて終わりではなく、中長期的観点での支援

デザインワークのスタートラインからお客さまと同じ船に乗り、保守運用を見据えたサービス設計ができるのも、一気通貫だからこそできるフューチャーの強みの1つだと思います。

サービス策定の時点からサービス開始後に必要な観点の考慮と洗い出しを実施し、サービス開始後も必要に応じてサービス・システムの維持・拡大を支援していきます。

おわりに

筆者が実際に携わった案件の中では、自分たちでサービス設計したけどなかなか具体化まで行けなかったり、他社のコンサルファームさんにサービス計画を立ててもらったがなかなか「システム化・サービス展開に繋げられない」「社内のステークホルダーと合意が取れない」等の理由でフューチャーに相談いただいて始まった案件が数多くあります。これこそ、前段で申し上げた「ViabilityとFeasibilityの壁」を乗り越える難しさの証だと考えます。

そういった経験からも、「技術的な知見を活かしながら地に足の着いたサービス設計ができ、スムーズにシステム構築に移っていける」、これが0から1を構想し、1から10に仕組みを作り上げることができるフューチャーが実施するデザインワークの強みだと言えます。

最後になりますが、当社が運営するポッドキャストでもデザインワークについてトークさせていただきました。

具体的なプロセスや事例についてもざっくばらんに話しているので興味のある方は是非!

Future Tech Cast

26 【DXアプローチ】デザインワークって何?