フューチャー技術ブログ

腰痛と闘うプログラマー

秋のブログ週間2023の1日目です。

はじめに

※この記事やこの本を読んだからと言って自身で診断を行わず、まずは整形外科などの医療機関にて診断を受けて、医師の方と治療方針を決定しましょう。また既に治療中の方は、取り組む前に一度医師や理学療法士の方と相談しましょう。

腰が痛くて仕事にならない、プログラマーこそが天職なのにこの痛みと一生付き合っていかないといけないのか…と思っている方は結構多いのではないでしょうか?
かく言う自分も腰痛持ちで、20代前半で椎間板ヘルニアと診断されました。当時はヘルニアが神経を圧迫し歩くのもつらい時期もありましたが、通院によってなんとか回復しました。
しかし完全にはよくならず、残りの人生全てを腰を気にしながら生きないといけないのか、、、と絶望しておりました。

そんなこんなで腰痛人生を送ってきたわけですが、ケリー・スターレット式 「座りすぎ」ケア完全マニュアルは自分の人生を変える一冊となりました。
本記事では読書の秋・スポーツの秋にぜひ読んで頂きたい本書を紹介していきたいと思います。

本書の構成

本書は全7セクションに分かれていて、順序立てて姿勢を改善していく方法を紹介していきます。
また、本書は腰痛のみならずデスクワークが引き起こす全ての痛み(肩、首、腰)に対応しております。

  • 姿勢の改善
    • Section1: 悪い姿勢がもたらすもの
    • Section2: アライメントが整い、安定した脊柱の重要性
  • 運動の改善
    • Section3: 上手に動く~歩行、ヒンジ、スクワット、安定した肩~
  • 習慣の改善
    • Section4: 立位ワークステーションのガイドライン
    • Section5: 座位のバイオメカニクスを最適化する
  • セルフケア
    • Section6: 基本的な身体のメンテナンス
    • Section7: 全身の可動性改善の処方箋

Section1~3では、論文の引用も挟みつつ主に科学的な視点で悪い姿勢による身体への影響や、なぜこの姿勢・運動が良いのかを説明していきます。
Section4~5は、姿勢が悪くならないようにどうやって習慣を改善していくかについて説明していきます。スタンディングデスクを始めたい方は、Section4を読んでから環境構築すると効果を最大化できます。
Section6~7は、自分の現在地を知るための柔軟性テストに始まり、凝り硬まった身体に対してアプローチするためのストレッチ方法が紹介されています。もし、スタンディングデスクをやる気がない人でもこのセクションで紹介されている可動性改善メソッドは十分に読む・実践する価値がある内容です。

本書を新冊で買うと「”Know how”ではなく”Know why”が書かれた本」と記載された帯がついてくるのですが、まさにその通りの内容となっております。問題に対して「なぜ(Why)」が先に説明された後に「どのように(How)」アプローチしていくかが紹介されているため、理解を深めやすいです。

感想

丸くなった背中

ケリー氏は言います。

「食事の度にチョコレートドーナツを食べて、食後にタバコを1箱吸うことが長期的に健康に有益な影響をもたらさないことは直観的にわかるだろう。一方、姿勢に対しても同じレベルで直観が働かないことが問題なのである。」

姿勢の悪さを気にしている人って案外少ないと思います。というよりも多分気づかないんですよね。
これは恐らく、自分自身の姿勢が目に見えないからなんだろうなーと思っています。例え鏡を使ったとしても、正面から見た状態では自分の姿勢がどうなっているかなんてほとんどわからないですよね。
かく言う自分も人に言われるまでは、日常的に猫背でストレートネックな状態であることに気づきませんでした。

ケリー氏は姿勢の悪い状態を、この木と同じ状態であると表現します。

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「この木は支えられていない。大雪は簡単にこの木を半分に折るか、川へと倒すだろう。」

本来、人体には重量に対して均一に吸収できるような分散システムが備わっています。しかし、姿勢が悪いことによって一部の箇所に重量を集中させてしまうことで酷使され、破綻を招いてしまうわけです。
エンジニアはシステムを設計するうえで、一部の箇所が過負荷に陥らないように負荷分散をさせることが重要だと認識していると思います。それと同じように身体の負荷分散にも目を向ける必要があります。

椅子に座るな、立て

この本で主張したいことはこういうことだろ? と想像すると思いますが、まさにその通りです。
しかし、ただ立てばいいということではありません。姿勢良く立つ必要があります。
また環境によっては立って仕事ができない場合もあります。ケリー氏はこう言っています。

「結局は座る方法が重要なのだ。」

この本で一貫して主張していることは姿勢が良い状態を保ちましょうになります。
Section5に「座位のバイオメカニクスを最適化する」を設けているようにケリー氏は「椅子に座ること」に対して切り捨てているわけではありません。
また、スタンディングデスクを導入するだけでは姿勢の問題は解決に至りません。

姿勢を整える

ケリー氏はブレーシングシーケンスと呼ばれる以下の3つの要素によって構成された姿勢の整え方を紹介します。

  • 腹式呼吸
  • 殿筋(お尻の筋肉)の収縮
  • 肩の外旋

スタンディングデスクを導入したうえで、ブレーシングシーケンスによって姿勢を整えることで問題の改善に兆しが見えてきます。
しかし、ケリー氏は厳しく言い放ちます。

(ブレーシングシーケンスは)少しの練習で習得可能である。問題は、習慣化できるかどうかである。何においても同じだが、実直な実践こそが習慣につながる。

私たちは正しい姿勢がDNAにプログラミングされており、一時的に取り戻すことは可能ですが、コンピュータのように初期化して取り戻すことはできません。
デスクバウンド(机に張り付いている)な社会において、長年積み重なった悪い姿勢を改善するには時間がかかります。常に姿勢のチェックを繰り返し、自然に染み込ませることで習慣化する必要があります。

立って仕事をするという選択

立って仕事をすることは、座って仕事をするよりもずっとよい選択である。なぜなら、立つことが運動への入り口となるからだ。

多くの人々は人生の大半を仕事に費やすこととなりますが、その時間のほぼ全てを立つことによって姿勢に良い影響をもたらすことが可能となります。またケリー氏が言うように、立つことが運動への入り口となり、日常に運動を取り入れることが更なる身体への好影響となります。

しかし、一日中同じ姿勢で立っていると非常に疲れますし、結局座位と同じで筋肉が同じ長さで凝り硬まってしまいます。そこでケリー氏は姿勢のルーティンを紹介します。ルーティンを取り入れることによって、筋肉を作用させ続け、身体の血流を保ち、一日中立っていることを可能とします。

セルフケア

より重要なこととして、そもそも組織が適応的に硬直して、機能不全となって最初に痛みを感じる前に、予防のために基本的なメンテナンスを行う方法を理解しなければならない。言い換えれば、腰部が痛んだり、股関節が硬くなったりするのを待つ必要はない。

痛みのあるなしに関わらず、予防としてのセルフケアストレッチは非常に有用なもとのなります。また、長時間のセルフケア時間を取る必要はなく、就寝前に10~15分程度行えばよいともケリー氏は述べております。
自分も就寝前に行っており、一日で硬まりきった身体をほぐした状態で睡眠に入れるため非常におススメです。

痛みがない生活を送り、間接と軟部組織が最適な状態になるように、戦略的かつ体系的なアプローチをとらなければならない。たとえば、腰部が痛む場合、その部位の軟部組織でフォームローラーを転がすだけでは、症状は回復しない。本当にこの問題を取り除くためには、計画的に、日常生活で脊柱のバイオメカニクスを改善して、(胸椎と股関節のような)腰部の上部・下部の部位にある軟部組織と間接制限も対象にすることを入れなければならない。

つまり、「痛みのある部位ばかりが問題ではない1ということを理解する必要があります。
最近フォームローラーがやたらと流行っていますが、痛みのある個所でコロコロやりがちです。結局、なぜその動きをするのか、なぜその姿勢をとるのかを理解していないと、自己満足コロコロで終わってしまいます。セルフケアを取り入れるには、まずHowよりもWhyを理解することが非常に重要です。

Section6では自身の可動性を確認するための、以下8つのテストを紹介しています。

  • ディープスクワットテスト
  • ピストルテスト
  • ヒップヒンジテスト
  • ソファーストレッチテスト
  • オーバーヘッドテスト
  • 肩の内旋テスト
  • 足趾・足部テスト
  • 手関節テスト

そしてSection7では上記のテスト結果に対する処方箋として、ストレッチ方法が紹介されております。どこが悪いかが分かったあとにちゃんと処方箋も用意されているため、すぐに改善へとつなげることができます。

バイオメカニクス、ライフスタイル、可動性

セルフメンテナンスを1日10分~15分費やすことは、潜在的な問題が本格的な炎症になるのを防ぐのに役立つ。しかし、セルフメンテナンスは痛みの解消と可動域の改善における一部分にすぎないことも同時に理解してほしい。可動性を高めることによる変化を持続させ、真の利点を得るために、さらに2つの要素-バイオメカニクスとライフスタイル-を扱う必要がある

しかしストレッチこそが銀の弾丸になるわけではないとケリー氏は釘を刺します。
ストレッチはあくまで硬くなった身体をほぐす役割であって、正しく動けない状態(バイオメカニクスが悪い状態)で、かつ座りすぎ(ライフスタイルが悪い状態)ではその効果が十分に発揮されないとケリー氏は述べています。また、そのような状態を穴の空いたタイヤに空気を入れ続けていると表現しております。まずは穴を埋めなければタイヤに空気は入りません。

硬いせいで、うまく動けないのか、うまく動かないから硬まるのか?

卵が先か、鶏が先かといった話に陥りますが、ケリー氏にとって答えは両方であると述べております。色々な複合要因から痛みが生じるのであって、1つ1つ紐解いていく必要があり、痛みを改善するには長い目で問題の根本を潰していく必要があります。週に1回マッサージに行ったからと言って痛みの問題は解決しないのです

問題に対して論理立てながらアプローチしていくことが好きなエンジニアにとって、実は身体機能を理解して科学的に腰痛を改善するためのアプローチをとることは実は非常に相性がいいのではないかと思っています。

まとめ

硬まりきった身体を元の状態へ戻していくのは中々骨の折れるプロセスではありますが、地道にコツコツと続けていけば確実に成果が表れます。
自分も痛みが取れるまで2年くらいかかりましたが、今では趣味の筋トレにてBIG32で腰を酷使しても問題ない状態にまで戻りました。
ぜひデスクワーク中の痛みを感じている方は一読してみてください。

Appendix

実際に立って仕事をしてみた

ここまで読んでスタンディングデスクをAmazonの買い物カゴに入れた方は一旦立ち止まりましょう。まずはスタンディングでの仕事を試してみて、買うかどうかを決めた方が良いと思います。

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※手作りスタンディングデスクの恒久的な利用は事故の元となるため、一時的な利用のみに留めて下さい。ある程度利用の目途が立ったら専用デスクを買いましょう。

テーブルにこたつ机を設置することでスタンディングデスクを作ってみました。こたつ机の足には滑り止めがついており、ちょっとした揺れでは机がずれないようになっています。
実際1か月ほど、立って仕事をしてみたところ、

  • 疲れる
    • めっちゃ疲れます。カロリー消費してる感。
    • かかとが痛い。
      • スリッパを履く or 抗疲労マット買うなど足裏を労わること大切
  • 眠くならない
    • 同じ姿勢でいられないので、自然と体が動いて眠くならないです。
  • 頭が冴える
    • 考え事をするとき歩き回れるので頭が働いている感あります。
  • 姿勢を気にしやすい
    • 座っているときよりも姿勢が悪い状態に気づきやすい気がします。
    • 姿勢が悪くなったらブレーシングシーケンス

というのが実感です。
自分は初日から業務時間フルで立ってしまったために、ものすごく疲れて太ももパンパンでした。そのため、いきなり業務時間フルで立つ必要はなく、休み休みで身体を慣らしていく形がよさそうです。
また、昇降式デスクを買うかどうかは難しいところになります。ケリー氏も以下のように言っております。

座位・立位のワークスステーションに関するコーネル大学の研究によれば、(昇降式デスクを)導入して最初の数か月は立つが(おそらく、珍しいため)、次第に机を低くして、座ることに戻ってしまい、再び立たなくなってしまう傾向があることが示されている3

強制力がなくなると強い意志を持っていない限り、楽な状態をとってしまうのが人間です。こうなると値段の高い机だけが残ってしまいます。
これらを考えると、下げることのできないスタンディングデスクと座面の高い椅子を用意したほうが安く済んで、なおかつ立って仕事をする習慣が続くのではないかなーと思います。

秋のブログ週間2023の1日目でした。次は山本さんの時を駆けるモバイルアプリUI設計です。

また、本記事のイラストはすべてDALL-E 3によって生成したものとなります。


  1. 1.強める!殿筋著のJohn Gibbons氏の名言。
  2. 2.ベンチプレス、スクワット、デッドリフトといったパワーリフティング3種目の総称。現在、著者の3種目トータルは455kg。
  3. 3.Bryan Walsh, "The Dangers of Sitting at Work-and Standing," Time, April 13, 2011, https://healthland.time.com/2011/04/13/the-dangers-of-sitting-at-work—and-standing/