フューチャー技術ブログ

「自在化身体論」の読書感想文

はじめに

こんにちは、2022年4月新卒入社、金融グループ所属の森です。

秋のブログ週間20232週目の記事として、自在化身体論の感想文を掲載します。

私はフロントエンドやアルゴリズム関連の書籍を読むことが多いのですが、読書の秋! ということで、思い切って普段は読まないような分野の本を手に取ってみました。

本の概要

「自在化身体」という概念や、それに関する研究、技術についての本です。
「自在化」の概念は本書で以下のように述べられています。

「 機械によって拡張された能力を、人が自在に扱えること」

想像しやすいところで言えば、人間の筋力を増強する「パワードスーツ」などが「自在化身体」の1つと言えるでしょう。

しかし、ロボットによる人体の拡張に限らず、バーチャル世界での身体、ひとりで複数の身体を扱うこと、逆に複数人でひとつの身体を制御することなど、「自在化身体」の様々な在り方が紹介されていきます。

章立てです。

各章で「自在化身体」の各研究グループのリーダーが自身の経歴や研究の内容、将来像について紹介していく形式になっています。

  • 第1章 変身・分身・合体まで ― 自在化身体が作る人類の未来
  • 第2章 身体の束縛から人を開放したい ― コミュニケーションの変革も
  • 第3章 拡張身体の内部表現を通して脳に潜む謎を暴きたい
  • 第4章 自在化身体は第4世代ロボット ― 神経科学で境界を超える
  • 第5章 今役立つロボットで自在化を促す ― 飛び込んでみないと自分はわからない
  • 第6章 バーチャル環境を活用した身体自在化とその限界を探る
  • 第7章 柔軟な人間と機械との融合
  • 第8章 情報的身体変工としての自在化技術 ― 美的価値と社会的倫理観の醸成に向けて

感想

「パワードスーツ」のような、ロボット工学の話題を中心に構成されていると思っていましたが、バーチャル空間上での身体についての研究や、心理学、脳科学の知見を利用した自在化身体の応用、自在化身体と美的感覚、倫理観の関係など非常に幅広い話題があり驚かされました。

興味深く感じた話題について紹介します。

自在と自動

「自在化」において大切なことは、あくまで人間に新しい能力を授けることだとされています。

書籍では自動運転技術とドラえもんのタケコプターを比較して説明しています。どちらの技術でもユーザーは移動という目的を達成できますが、自在化で目指すのはタケコプターのように人間に移動能力を付加することです。

あくまで主体は人間であるという点と、行動の結果のみを重要視しているわけではない点に、単に利便性のための技術にとどまらない可能性を感じて好印象でした。

第3の腕

ロボットハンドを体に装着し自由自在に扱えるようにする研究や、ロボットハンドを自身の体から離れたところに設置し動かす研究が紹介されていました。

ロボットハンドを遠隔操作する場合、操作している腕の位置や角度に応じて操作者の背中に刺激を与えると作業効率が上がる実験結果が得られているそうです。

ロボットハンドという本来自分の体にないパーツからのフィードバックに脳が対応できる点が非常に興味深かったです。

この他にも人間の適応能力の高さを利用した研究や、逆に脳がどれだけの身体拡張を許容できるのか調べる研究についても紹介されていました。

身体感覚の編集

モーションキャプチャでユーザーの全身の動きを取得し、VR空間上のアバターの動きに反映させるシステムを用いた実験が紹介されていました。

ユーザーはヘッドマウントディスプレイを通してVR空間上で自身の動きをリアルタイムに観測します。ここで、アバターの表示に遅延を入れる、もしくはアバターの次の動きを予測し、数フレーム先の動作を表示すると、ユーザーは「体が重い」もしくは「体が軽い」という感覚を得るそうです。

アバターという拡張された身体を経由することで人間の感覚の制御ができる、という話を聞くと、いずれ自身の思い通りに感覚を制御しながら生活ができるのでは? と夢が広がりますね!

さいごに

自分にとって初めての概念が多く登場する本でしたが、具体的な研究内容の紹介や図表による説明が十分にあったため、あまり困ることなく読み進めることができました。

子供の頃に夢見たSFの世界がすぐそこに迫っている事実にワクワクが止まりません(書籍の内容ではありませんが、自在化身体研究プロジェクトで作成された自在肢がカッコイイ…)

SFが好きな方、VR、ロボット工学、心理学、脳科学に興味がある方など様々な人にオススメできる本です。

次は栗栖さんのリファクタリング本を読んで良いコードとは何かを知るです。