1. はじめに
はじめまして。TIG - Technology Innovation Group - の清水です。2016年3月に転職してきて、10年経ったインフラ屋さんです。前職コンピュータメーカーには15年いました。
4月は新社会人が街に目立つ季節です。桜と新しいスーツの組み合わせが素敵ですね。ということで、OJTを進める上で大事なこと、を「春の入門祭り2026」に合わせて共有します。Futureでは数ヶ月の新人研修の先にOJTがやってくるので、実際にはもう少し先の話ですね。
2. これだけやろうOJT やること・目的
仕事をする中で、人びとが同じような落とし穴に、同じように嵌まってもがく状況をみてきました。もちろん私ももがいてきました。「これどうにかして丸っと全部解消できないかな」と考えていたら、OJTの進め方に行きつきました。
「これだけ」と言いながら3つ書きます。ずるいですね。
2.1. ともに希望を語る
目的: 新人さんも、チームもワクワクするため。だって楽しい方がいいから。
説明: 一歩目は希望を抱くところから。最初、新人さんは不安です。汝のなりたい姿を述べよ!と言っても難しいかもです。持っている情報も少ないですし。とりあえずあなたの2年後の姿想像したよ・こんなんどうかな、と先輩が提示してみると、そこから考えが進むかもしれません。互いに希望を話し合い、未来の姿をともに見えるようにしていくと、日々の活動が楽しくなります。
2.2. あの人はどうなったら嬉しいのだろう、をともに語る
目的: 仕事の勘所をつかむため & できるかも、を感じるため
説明: 中核です。「こうすれば仕事はうまくいく」というゲームの基本ルールを理解する活動です。暗記テストで点をとるには、音読・黙読・筆記が有効ですが、仕事は違います。「あの人はどうなったら嬉しいだろう」を考える、が基本動作です。みんな消費者としてはベテランなので、やってみると大事な部分が分かるぞ!という感覚が得られます。全体が把握できるかも感も出てきて、ついでにこの仕事、すんごく意味あるじゃん!と楽しくなります。楽しいことはいいことです。
2.3. 美しさ、と仕事を同時に語る
目的: 道から外れないため & 使命を見つけるため
説明: 応用です。油断すると仕事は経済合理性と効率一辺倒になりやすいです。ビジネスなので一見正しく見えますが、倫理を忘れた追求により複数の企業で悲しい事件が起きています。それを起こさないためには、現場での美しさの感覚がもっとも大切です。美しさを意識して仕事をすると、道から外れないだけでなく、その先に何を見出すか、という使命に近づくことができ、仕事が楽しくなります。
これで全部です。シンプルー。
もうちょっと詳しく、と思ってくれた方のために細かく説明します。
3. これだけやろうOJT 詳しいやり方
具体何をするか、と考え方を書きます。
えーと、長いです。
3.1. ともに希望を語る
ある日、新人さんがチームにやってきます。
先輩のやること
2年後のその人の姿を絵にして見せましょう。こんなふうになっていたら、その人は楽しいんじゃないかな、と想像しながら用意します。絵が良いです。絵には解釈の余地を残せるのと、色使いで心持ちを想像させる良さがあります。私が使ったことのある主題はこちらです。
- 言葉の魔術師
- 兵站の鬼
- 俺的ベスト案マン
新人さんの頭の中とは、当然ずれがあります。時間をかけて、2年後の誰々さん像をチームで作っていきます。新人さんの中にすでに明確な像があったら素敵ですね。是非取り込みましょう。
新人さんのやること
自分に二つ名をつけましょう。気楽に。ちがうな、と思ったら後で変えればいいです。変えても世界は滅ばないので大丈夫です。過去にはこんなのがありました。
- 体力化け物ツヨツヨ論理マン
- 飛躍する思考力、土台の耐久力
- 心は熱く、頭はクールに、歩みは着実に
説明・どこを目指すか
いつか新人さんを送り出す日が来ます。その時にはもう”新人さん”ではないでしょう。
「次のプロジェクトに、私はこの人をどう自慢しながら送り出してあげられるだろう」
送り出すその日を考えて、OJTを過ごします。
- この人はどんな特性だろう
- 仕事をうまく進めるための力のうち、この人の得意はどれだろう
- この人の苦手は、どんな人との組み合わせでうまくいくだろう
これを新人さんとともに考えます。チームで作りあげていく希望です。2年後の像と二つ名は、それを考える助けになってくれます。
OJT開始、ということで案件の説明をし、タスクを実際にやってもらいます。何に心をおきながら日々活動すると良いか。以降説明します。
3.2. あの人はどうなったら嬉しいのだろう、をともに語る
やること
最初に任される仕事で嬉しさ分析をやりましょう。
画面開発・打鍵テスト・ハード設計・障害テスト、何でも良いです。でもその仕事をすると、絶対に誰かは嬉しいです。誰がどう嬉しいか、を書き出します。
- 自チームメンバー
- 自チームリーダー
- 隣のチーム
- プロジェクト全体のリーダー
- お客さんの担当の方
- その上司の方
- 部長さん、社長さん
- 最後の最後の、本当のお客さん
新人さんがいきなりやるのは大変なので、まず先輩がやってみせます。もし先輩が分からなかったら大チャンスです。兎に角みんなで想像を言い合って仮説を作り、分かりそうな人に聞いてみましょう。コツは「最後の最後の、本当のお客さん」から考え出すことです。みなさん消費者としてはベテランなので、実は一番大事なところの知見・実感を既に持っています。
この嬉しさ分析を色んなタスクで繰り返すと、自分たちがおおよそどちらの方角に進むのが正しそうか、が分かるようになります。鼻が効くようになります。風が読めるようになる、と言ってもいいでしょう。すんごい毒々しい黄色と黒のナマコみたいなものを、俺はマフラーとして売りたいんだ、と誰かが言い出したとして、それって誰が嬉しいの?と周りが言えるチームになっているでしょう。ちょっと変な例ですが、でもそういうことです。
先輩は、分からんなぁ、ということがあったらどんどん、分からん!と言いましょう。その瞬間、後輩がともに戦う仲間になってくれます。自分も気が楽になります。自分が先輩を助けたいのと同じように、後輩はあなたを助けたいと思ってくれています。
説明
しごと、が誰かの幸せを叶えるものである以上、IT・飲食・不動産と何でも良いのですが、その活動で必ず誰かが幸せになっています。サービス提供側もまた喜んでいます。ひとつの仕事が続いているのは、全体の喜びのバランスが取れているということです。
( あの人はどうなったら嬉しいのだろう )
これが仕事の北極星です。
ステークホルダー分析とか、カスタマーサティスファクションとかカタカナを使ってもいいのですが、でも要するにそういうことです。嬉しさが波のように伝わっているのです。
分業の時代です。1つのサービスが誰かの元に届くまでに、多くの人が関わっています。ハンバーガーが食べられるまで、を考えると分かりやすいですよね。元は誰かが大切に育ててくれていた牛であり、レタスであり、小麦でした。そして当然、東京で生産していたわけじゃないです。なのに東京で美味しいハンバーガーが食べられます。とにかく仕事に関わるすべての人の気持ちを想像し、書き出す。これがOJTでやることです。
全体構想、要件定義、- 中略 - 、運用と様々な工程がありますが、どの工程でも必ず成長できます。なぜか。全ての仕事は誰かの嬉しさのために存在しており、同じ構造だからです。最終的なお客さんである誰かが実際に嬉しい、と思うまでの「嬉しさの伝搬」を中心に考れば、現時点の自分の担当がたまたまどこか、というだけの話です。担当、というのはそこだけやっていればいい、という話ではなく、価値を伝搬し実現することが最上位にあり、その文脈の中で担当分に専門性を持つということです。その専門性から見て全体の構造を変えた方がより価値を生み出せる、と気がついたならば、そこに仲間とともに立ち向かいます。仲間は自社だけでなく「嬉しさの伝搬」に関わる全ての生産者です。みなで価値を生んでいるのですから。
価値、つまり最終的なお客さんの嬉しさと自分のタスクの関係性をみんなで深く考える。そこで培われた考え方・嗅覚は別の工程でも活かせる技能です。長い間、私たちを助けてくれます。
嬉しさの伝搬をたどって仕事の全体像が見えてくると、よくこんな一連の「動くネットワーク」ができたもんだな、と驚きます。そこに自分も参加して、嬉しさの維持と合わせて新しい喜びを生み出せるのは、とても心躍ることではないでしょうか。
なおエンジニアとビジネス、という観点で非常に優れた記事があるのでぜひご覧ください。悩める私を折りにふれ励ましてくれた記事です。
3.3. 美しさと仕事、を同時に語る
やること
タスクをする際、美しさ分析をしましょう。
このタスクをすることは、人として美しいのか。
これをチームで話し合います。時間を使って仕事をするわけですが「時間を使う」は命を削る、と同義です。仲間の命を削ってまで、そのタスクはやる意義・価値があるのか。美しい行為なのか。人として。いきものとして。意義が感じられないなら、立ち止まって考える必要があります。
意義を、仲間と日常的に話し合いましょう。意義がないと分かったなら、活動はやめましょう。意義が見えにくいだけ、というケースもあります。価値の構造を皆で納得できるまで話し合いましょう。その活動を始めた人、は多くの背景と文脈を知っています。自分たちの仮説を是非話してみてください。数年に渡る壮大な計画かもしれません。それが読み解けたとき、物事の多層性が実感を持って理解でき、事象を精度高く捉える力と、未来を想像する力が増しているでしょう。
説明
社会人になる = 消費者から生産者に変身する、というのはつまり、よくよく考えないと間違ったことに直接手を貸しかねない、ということです。報道で、どうしてこうなった、という悲しい例を耳にします。そうならないようにしたいですね。自分の良心に照らして、その行為は恥ずかしくないか?という物差しを持つことです。
我々の仕事は美しい、なぜならば、を語れるようになったチームは頭の中に、より多くの戦い方が浮かぶようになっています。同時に、仕事の楽しさも増しているはずです。なおこの「意義を考える」活動は、意義を問う後輩 vs 答える先輩、という構図でなく、タスクに対してチームで問いかけ・思考実験をする姿勢が良いです。正解などないが、皆で着想を出し合って正解らしきものに近づいていく、という動きを作り出すのにも役立ちます。
そして仕事をする上で、最終的なお客さん、関わる人たちのことだけではなく、その先の未来に自分たちが何を反映したいのか、を合わせて考えたなら、その仕事が自分にとってひとつの物語として立ち上がってくるのではないでしょうか。消費者の目線をもち生産し、現在に幸せを作りながら、未来に何を渡していくかを考える。私たちの先輩はそうしてきたのだし、私たちもまた、そうしてバトンを渡していきたいものです。
4. まとめ
今回は、OJTを進める上で大切なことを書きました。
- ともに希望を語る ・ 2年先の姿をともに描く
- あの人はどうなったら嬉しいだろう、をともに語る
- 美しさと仕事、を同時に語る
先輩役の人も、後輩役の人も、どちらも完璧超人ではなくて人なので、支え合いながら前に進めるといいですよね。
私が働きだして長い月日が経ちました。目にした苦しみの多くは、「自分の頭で自由に考える力」を奪われたことに起因するものでした。受験教育の弊害、と私は考えています。人がよく生きる上で、もう有効に機能しない仕組みだ、と。
それでも今と同じ教育の仕組みが続くならば、それに対抗するために、私たちにどのような方法が取りうるのか、の私なりの答えの一つが、このOJTの話です。この話が、みなさんの助けになることを願っています。
最後に、OJTに関わるみなさんへアラゴンの詩をおくります。
教えるとは 共に希望を語ること
学ぶとは 真実を胸に刻むこと 1
双方に実り多きOJTとなりますよう。
- 1.翻訳は徳山詳直氏による。OJTの本質は「共にあること」という筆者信条に基づき徳山氏翻訳を引用した。より広く知られている翻訳は「教えるとは 希望を語ること / 学ぶとは 誠実を胸にきざむこと」(『フランスの起床ラッパ』p.106 大島博光訳、新日本文庫)。古本を探すのは大変ですが、国会図書館デジタルコレクションで見ることができます。なんとスマホで。すごいですね。 ↩