TIG/DXの渋川です。
ソフトウェアの世界では、ツールや言語の進歩があって、もはや古い知識になっているにも関わらず、古い知識がベストプラクティスと呼ばれて蔓延し続けている例があります。Dockerだと「RUNをまとめよう」というのがそうです。かつてはこれは常に行うべきプラクティスでしたが、現代だとそうじゃないケースもあり、デメリットもあります。
1. ただファイルが増えるだけのケースであれば気にしなくていい
次の2つのファイルで実験してみます。ベースイメージに、10MBのファイルを作成するコマンドをふたつ並べたものです。
FROM debian:bullseye-slim |
FROM debian:bullseye-slim |
結果を見てみると、サイズは同じです。「Aを足す」「Bを足す」というレイヤーと、「AとBを足す」というレイヤー、どちらであっても差はありません。
<none> <none> cc9f228f6862 5 seconds ago 89.1MB |
2. ファイルの削除時にのみ影響があるが、必要なファイルだけを引っこ抜くなら違いはない
次の2つを比較してみましょう。2つファイルがあるが、1つは後から削除するというケースです。apt getしたあとに不要なファイルを消すとかそういうのでよく見かけますね。
FROM debian:bullseye-slim |
FROM debian:bullseye-slim |
今度は違いが出ました。最初のRUNを混ぜない方法では、途中のレイヤーの状態としてはdummy1ファイルが存在しています。そのため、その分サイズが大きくなってしまうのです。
<none> <none> 7594cc6c4f07 About a minute ago 89.1MB |
ここまでが昔の話。今の時代(といってももう4年前?)からはマルチステージビルドがあります。最終的に必要なファイルはdummy2だけですので、実行用イメージはビルド用イメージからそのファイルを持ってきます。
FROM debian:bullseye-slim as builder |
RUNを連結してrmしたのと同じイメージサイズになりましたね。
<none> <none> 5398e862d3db 2 seconds ago 78.6MB |
もし、aptのパッケージになくてビルドを自前でやっている、オプションをチューニングしたビルドが必要みたいなケースでは--prefix
で/usr/local
とは別のところ、例えば/opt/local
とかにmake install
をしておけば、最終イメージへのコピーはしやすく、マルチステージ化しやすいかと思います。
まとめることのデメリット
1にも2にも、キャッシュが効かなくなってDockerの実行速度が落ちることです。連結したコマンドが途中で失敗したら、最初からやり直しです。
また、何かしらの原因で失敗したときに、&&で連結されたどのコマンドが原因で失敗したのかが一発では分からなくなります。&&を消して複数のRUNにして再実行し、デバッグが終わったらまた結合する・・・みたいになりがちです。
まとめ
「あとから無駄ファイルを削除する」という場合には、その無駄ファイルを生成しているコマンドと連結すれば効果はありました。これはつまり、apt-get関連のコマンド群と、npm installなどのコマンド群を一緒に連結する意味はないということです。ファイル削除に意識して、「こことここはくっつけるべきだが、あとは効果がない」というのを吟味しましょう。
また、ファイル削除の場合でも、成果物だけ別のステージのイメージに転送してしまえば、無駄ファイルを削除する必要もありませんでした。なのでマルチステージビルドの最終的な成果物のイメージ以外ではRUNの連結は不要です。
マルチステージビルドの場合、実行に必要なファイル群の準備は別イメージ内で完了し、結果を実行イメージにコピーする使い方が一般的です。RUNはそのイメージ内部でyumとかapt-getで追加のライブラリなりツールをインストールする場合のみ使われるはずなので、&&の結合が登場するとしたらそこだけじゃないですかね。
なにもデメリットがなければ「シノゴの言わず結合せよ」でもいいとは思うんですが、デメリットもありますし、特に電力供給が逼迫しているというこの時期ですので、不要な結合をしてキャッシュを効かなくして消費電力を増やさないようにしたいものです。