フューチャー技術ブログ

エンジニアが持っておくと幸せになれるビジネス視点

本エントリーの目的

もしあなたがテックリード(または志している)エンジニアであれば、きっとこんな風に感じた経験があるのではないでしょうか。

「世界にはイカした新技術(しかもオープンなのに!)がこんなにたくさんあるのに、なぜどれだけ主張しても採用が叶わないのだろう」と。

それが原因で上司と衝突したり、あるいはその場を去るきっかけになった方もいるかもしれません。

そんな悩めるエンジニアが、ここぞという時に突破するための大切な「ビジネス視点」の話をします。

システム導入プロジェクトでなされる様々な意思決定のツボを知ることで、一段高い視座での技術的リーダーシップ発揮へ役立てていただければ幸いです。

なぜエンジニアにビジネス視点が必要か

答えはシンプルです。趣味や学術研究領域のエンジニアでない限り、我々は基本的に「ビジネスの世界でエンジニアリングを生業としている」からです。

平たく言うと、お給料をもらっているエンジニアであれば、そのお金の元をたどれば必ず何らかの事業活動(=ビジネス)があるはずなのです。

ビジネス視点を持てば、事業活動が見えてくる。そうすれば、エンジニア自身の立ち振る舞いにも何らか活かせるような気がしますよね。

ここでいう「ビジネス視点」とは、一言でいうと何か。
それは「経済合理性」です。

ビジネスで重視される「経済合理性」とは

さて、ビジネス視点を紐解いていきましょう。

企業のシステム導入プロジェクトではよく「IT投資」という表現を使います。割となんとなく見過ごしがちなのですが、この「投資」という言葉が重要です。

そう。企業にとって、システム導入は「投資」なのです。

個人でいえば、株や不動産を買って資産を増やす、あれです。
資本を投じ、リスクを取って、リターンを期待する、あれです。

企業も一緒です。

資金や人的リソースを投じ、様々なリスクを取って、何らかのリターンを期待する。その期待できるリターンが投入資本やリスクよりも大きいからこそ、構想したプロジェクト企画に対して経営者がGOを出すのです。

この関係性は、分かりやすく式で表現できます。

 

では、IT投資に期待される「リターン」とは何か。

ここにビジネスで重視される「経済合理性」がクッキリと表れてきます。

IT投資に期待される5つのリターン

次の図をご覧ください。

1.売上を伸ばす、2.売上を下げない、3業務効率化、4.システムコスト削減、5.コンプライアンス・リスク対応

「事業継続」というのは、「やらないとどうしようもない」投資なので、実施自体が投資の目的です。それ以外の4つは、「売上」を何とかするか、「コスト」を何とかするか。

すなわちたいていの場合、投資対効果というのは「利益の拡大」、すなわち「儲かるかどうか」が要点です。先述の式にあてはめれば、リスクを差っ引いても、投入資本よりも利益を拡大できることが、経済合理性がある、ということです。

これはビジネス視点では、非常に強い前提事項です。個人の投資に例えれば・・・説明不要ですよね。

さて、最初の疑問に戻りましょう。

「世界にはイカした新技術(しかもオープンなのに!)がこんなにたくさんあるのに、なぜどれだけ主張しても採用が叶わないのだろう」

ビジネスサイドが新技術を採用しない主な理由と対策

【理由1】リターン起因:新技術を採用しても「別に儲からない」と思われているから

極めて残念な帰結です。先に述べた「5つのリターン」に対し、候補技術の必要性・効能が伝わっていないということです。技術トレンドだけでは、ましてやロマンやムードだけでは、ビジネス判断は動かないのです(逆に、技術トレンドやムードのみでされるような技術選定は、ビジネス視点で非常に危ういものということもできます)

この場合、候補技術が「売上」「コスト」観点でいかに寄与するか、ロジックを組み立てるのが有効です。

劇的に開発生産性が向上するのであれば分かりやすいですが、たいていの場合、新技術はキャッチアップコストがかかります。中長期のメンテナンスコスト効果、変化対応力向上(エコシステムの将来性含む)等を主軸に置くとよいでしょう。

なお、有償の開発プラットフォーム(SaaS、ローコード等)は逆の注意が必要です。短期的にコスト削減効果が大きくても、中長期踏まえてIT投資の目的に寄与するか・足枷にならないかどうか、保守運用観点で吟味しましょう。

【理由2】リスク起因:新技術を採用すると「デリバリリスクが高まる」と思われているから

先ほどの式を思い出してください。

 

技術選定には、リターンだけでなく、リスク観点も重要になります。経験済の方も多いのではと思いますが、一般的に、未経験の技術要素を含む場合、プロジェクトデリバリの難易度は高まります。そのため、ビジネスサイドは、社内外に実績豊富な技術採用をしやすい傾向があります。

新技術を提案する際には、入念に調査・準備をし、リスクヘッジとその説明に努めましょう。もちろん、「作って終わり」ではなく、保守運用観点のリスク対応も忘れずに。

実績づくりとして、スモールサクセスを積み重ねることも有効です。調査研究ネタをテックブログの記事にするのもイイですね。

目的が大事

ここまで、技術選定を例に「経済合理性」というビジネス視点の役立て方を説明してきました。

さて、もう1つ大切な視点をお伝えして締めたいと思います。

それは、「技術=手段」であり「目的が大事」ということです。

技術に生きるものとして、自ら手掛けるモノのクオリティにこだわるのは当然です。しかし、最初に述べた通り、あくまで「事業活動のための技術活用」です。

目的>方針>手段。方針策定の事実の関係図

ビジネスに限らず、すべての活動において重要なのは「目的を見失わない」こと。目的を定め、必要な事実(ファクト)をしっかりと収集する。そして、「目的」と「手段」をつなぐために「方針」として言語化する。「方針」を明確にすると、「手段」の選択肢を比較検討し、その中から最適解を効率的に選ぶことができる。

テックリードは「目的」をしっかりと見据えつつ、「方針」を打ち出すことが重要な役割です。

「手段」としての技術の選択肢を追うだけではなく、「何のためのシステム開発なのか」を技術視点で語れることが重要と思います。「業務要件を決めてもってきて」と線引き・下請けするのではなく、「IT投資の目的に照らすとこの方針を取るべし」と仮説を立てることが成功のカギです。

スマートに目的達成できるエンジニア、ステキだと思います。

余談:経済合理性の功罪

ちなみに、あまり経済合理性ばかり追求しすぎるのも、中長期目線では考えものです。

組織開発・人材育成はメンバーのモチベーション・感性によるところが大きいこともあり、経済合理性ばかり追求するとうまくいかないといわれています。

最後に

今回は新技術の選定・採用検討を例に、なぜエンジニアにビジネス視点が必要か、「経済合理性」というビジネス視点の役立て方を紹介しました。そして、問題解決のためには「目的を見失わない」ことの重要性を述べました。

ちょっと毛色の違うエントリーでしたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。日々の業務のどこかで役立てていただければ幸いです。

以上、「エンジニアが持っておくと幸せになれるビジネス視点」でした。「経済合理性」はビジネス視点のほんの一部に過ぎないので、ぜひ技術・ビジネスとシームレスに、興味関心を持ってみてください。