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【エネルギー業界】LPガス基礎part1 超入門編

※画像はトイズキャビンさんの1/24スケールプロパンガスのガチャガチャです。

はじめに

TIG真野です。業界ドメインに詳しくなろうというテーマで、LPガス業界について触れていきます。

この記事はLPG業界知識の超入門編です。新規参画のメンバーのオンボーディングで何度か受け入れの紹介をしましたが、高頻度で繰り返し説明したことをこの記事でまとめます。かなり基礎的な内容も含みますが、個別の詳細な内容は別記事にて紹介します。この記事では各領域を説明する記事から基礎的な部分はこちらで、といったリンクを貼られて使われることも想定しています。

LPガスとは

LPガスとはLiquefied Petroleum Gasの略で、プロパンとブタンを液化した液化石油ガスです。LPGと略すことも多いです。8割ほどがプロパンであるためプロパンガスが一般名称にもなっています。トップ画像にあるように、ガスボンベに詰められ、都市ガスが通っていない地域のご家庭などで燃料として使われています。当然、ガスボンベを定期的に交換しないとガスが利用できないため直感的にはかなり手間がかかるインフラだと感じますが、その分ガスボンベは各家庭など供給先単位で独立しているため、災害に強いとされています1

対して、都市ガスは道路の下のガス管を経由して供給されます。日本ガス業界さんのページからわかりやすい比較図をお借りすると、以下のような物流の違いがあります。都市部でよく見るガスホルダーは都市ガスだけにあるということが分かると思います。

供給の違い

※画像は https://www.gas.or.jp/chigai/ より

上図のLPガスで補足すると、充填所(じゅうてんじょ)は、ガスボンベにLPガスを詰めることを指します。配送者はトラックで各需要家(エネルギー業界では供給先のお客様を指す)に充填されたボンベと、使用済みで空っぽになったボンベを交換します。後で説明しますが、家庭用でよく見るLPガスが50kg入るボンベだとフル充填で86kgほどになるのでかなり重く運搬が大変です。充填所のスタッフの方や、配送員さんには感謝しかないですね。

また、よく混乱しやすい点としては、都市ガスはLNG(メタンを主成分に持つ液化天然ガス)で、ガスの種類自体が異なります。理由はLPガスの方が凝固点が高い2(マイナス42度。都市ガスはマイナス162度)である点や、LPガスの方が同じ体積で倍以上の熱を出すことができるなど、運搬用途として適しているから使い分けているのだと思います。この燃焼効率が良いという特性から、街の中華料理屋さんなど火力が必要な一部の飲食店では、都市ガスエリアでありながらLPガスを契約する場合もあるそうです3

その他の利用用途としては、工業向けや、LPG車(タクシーなどに多いですよね)があります。現在、私の自宅は都市ガスですが、鍋を食べる時はイワタニ カセットフー 達人スリムさんにいつもお世話になりますが、これもLPガスが詰まっています(主成分はブタンになるそうですが)。

LPガス市場について

そんなLPガス業界の需要動向ですが、1996年度1970万トンがピークで、2021年以降は1400万トン程度と減少傾向にあります4

「ガス事業の現状5」を見ると需要家数は2013年度ベースで、都市ガス2,900万件、簡易ガス(後述します)140万件、LP ガスが約2,400万件なので、だいたい46%ほどがLPガスを利用しています。特筆すべきはその事業者数で、都市ガスは209社ですが、LPガス販売事業は21,052社です。都市ガスはどうしても導管等に必要な設備投資が大きく規模の経済性が働くのですが、LPガスはボンベ配送が地域密着になるため事業者数が多くなるのでしょう。

LPガス事業について

ガス事業ですが、大きく3つに分割できます。

  1. 一般ガス事業
    1. いわゆる導管でガスを供給する、都市ガスです
  2. 簡易ガス事業
    1. 70戸以上の団地に対して、LPガスを導管で一括で供給する方式
    2. 業界ではコミュニティガス事業とも呼ばれているようです
  3. LPガス販売事業
    1. 充填したボンベを需要家に対して輸送・供給する方式
    2. 導管を使っていても、70戸未満の場合はこちらになる

簡易ガス事業がLPガス販売事業と分けられているのは、根拠となる法令が異なるからです。一般ガス事業と簡易ガス事業はガス事業法、LPガス販売事業は液石法(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)の法令が管理されています。本記事では法律の詳細には触れませんが、根拠となる法令が異なるということは知っておくと良いでしょう。

LPガスの需要家への料金請求

一般家庭の請求ですが、大体月に1回の検針(ガスメーターの数値を読み取ること)で、ガスの使用量をもとに料金が決定します。物理的に現地に訪問して検針する方法もあれば、何かしらのスマートデバイス経由で読み取るケースもあります。例えば、5/1に101㎥(立方メートルですが、りゅうべい と呼ぶことが多い)、6/1に106㎥だった場合、5月分は5㎥分の従量料金を請求するという形です(正確には基本料金も上乗せになるでしょう)。

この5㎥はどれくらいの使用量でお値段がいくつなんだという話ですが、200リットルの浴槽だと、約0.3㎥のLPガスを使用すれば15℃の水から40℃のお湯にすることができるそうです6。 16回ほどお風呂にはいれるくらいでしょうか。料金は都道府県ごとに相場が異なりそうですが、Selectraさんで見てみると、東京都で3,190円ほどでした。2022年5月の国際情勢を見ると、今後はさらに値上がっていくでしょう…。価格決定のメカニズムについて興味がある方は、CP(contract price)について調べると良いと思います。

産気率

さきほどガスの使用量が5㎥と例を上げましたが、これは50kgボンベのどれくらい消費したでしょうか。㎥→kgの変換は産気率を用います。産気率ですが、気温によっても変わりますが、日本LPガス協会が出した数値だと、0.458㎥/kg だそうです。

これをもとにすると、 5[㎥]/ 0.458[㎥/kg] ≒ 10.9[kg] です。50kgボンベですと×5回弱分の消費量ですので、仮に30日5㎥だと、150日ほどで1本消費。1本ごと交換するのであれば、年に2回ほどボンベ交換を行うイメージでしょうか。

LPガス設備について

大きく、供給設備消費設備の2種類に分かれることが特徴です。

供給設備・消費設備

※画像は熊本県LPガス協会さんのページより

供給設備ですが、図にあるようにLPボンベからガスメータの出口までが供給設備です。消費設備は、コンロや給湯器などの設備を指します。供給設備はLPガス会社側の持ち物であるため、当然ですがガスメーターを消費者側で自由に取り替えたりできません(そもそも、国家資格が必要です)。

さて、供給設備の重要な要素の1つであるガスメーターですが、中にはマイコンが入っていて非常に賢い作りになっています。24時間ガスの使用状態を見守っており、ガス漏れ、ガス機器の消し忘れの疑い、や震度5以上の地震発生などの非常時には、ガスを自動的にストップします。電気のブレーカーのようで安全な仕組みです。安全性については都市ガスはどのようにして安全になったのか? という書籍に詳しく述べられています。東京ガスさんの◆今日は「何の日」? ◆ 知られざる「ガスメーター」の歴史 にもダイジェストで書かれているので、興味がある方は読むと学びになります。

ガスボンベですが、大体の一般家庭では2本設置されます(場所が取れず、1本の場合もありえますし、使用量次第では3本以上設置されることもあります)。理由ですが、急な使用量の急増でガスが切れる恐れを極力なくすことや、配送の効率化(持ち帰り時に空っぽになっていることが作業負荷としても良い)がよく説明されます。

集中プロパン方式(集団供給方式)

集中プロパン方式

※画像は https://fatmag.jp/lpg-stand-alone-house/ より

供給方法ですが、供給設備:需要家=1:1(個別供給システムとも呼びます)ではなく、1:Nになることがあります。これを集中プロパン方式と言います。この場合は、需要家ごとに料金を請求したいのでガスメーターも複数存在することになります。集中プロパン方式が70戸以上ですと、簡易ガス事業になります。

簡易ガスとみなすときの注意ですが、供給設備が1つに紐づく需要家が70戸以上とは限らず、同じ団地など区画であることが重要だそうです。また、LPガス会社の事業統合などで、自社あるエリアが70を超えると、簡易ガス扱いになるとのこと。関東液化石油ガス協議会 保安管理者研修会 研修資料 簡易ガス事業について - 関東経済産業局 ガス事業課 のp33に詳しいです。

LPガス容器庫ですが、次のようなイメージです。集中プロパンですと、大体のケースで供給設備に接続されたボンベも2本より大きくなるでしょう。

LPガス容器庫

※画像は http://godo-gas.co.jp/godo-gas/ より

集中プロパン方式では、ボンベの代わりにバルク貯槽を用いる方式があります。バルクローリで直接LPガスを充填できるので、配送の合理化、保安の高度化、美観の向上など多くの利点があります。

バルク貯槽

※画像は http://www.nichidankyo.gr.jp/toku/chapter07/pdf/ch07_07.pdf より

バルクの場合は、いちいちボンベに詰め替える必要も無いため、かなり配送の合理化ができそうなことが直感的に分かります。

集団供給方式と並べて、戸建てに対する個別の供給は、戸別供給方式とも呼びます。

ボンベについて

ガスボンベですが、複数の大きさが存在します。サイズはどれくらいのLPガスを充填できるかで分けられており50kg、20kgがよく用いられています。おそらくLPガス事業者にとってはなるべく大きなサイズのボンベを設置したほうが有利でしょうが、持ち運びや設置場所などの問題で20kgなど小さな容量のボンベが用いられます。各容量別のサイズについてはプロパンガス ボンベのサイズ(寸法)について 2Kg ~ 50Kg | ファトマグ にまとめがありました。

その他、ベーパーライザーと呼ばれる強制気化装置の存在があります。多量のガスを使用する場では、ボンベからの自然気化によるガス量だけでは供給が追いつかないため、LPG液をベーパーライザーに渡して、温水や電熱で液体を気化させます。これに対応したボンベが、ベーパーライザー用のボンベです。ベーパー瓶と呼ぶこともあります。

ベーパー対応ボンベ

違いですが、緑(真ん中)と赤(左)のバルブが2種類ついていることが特徴です。緑のバルブからは気化したガスが、赤いバルブからは液体のままでてきます。

まとめ

ざっと新規参画者に概況をインプットするときにお伝えする内容をまとめました。エネルギー業界は昨今の世界情勢もあり非常に注目されていて面白い領域です。業界の将来像(注目されている技術)や最新動向(自由化など)といった内容や、各領域についても、もっとディープダイブした内容を紹介していこうと思います。

2022.6.30 パート2,3, 4も公開しました。
2022.7.13 part5も公開しました。


  1. 1.東日本大震災でも活躍したというニュースがありました。分散型で軒下在庫があり、劣化しないといった特性があります。 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lpgas.html#:~:text=東日本大震災でも実証され,して稼働します。
  2. 2.https://www.gas.or.jp/chigai/
  3. 3.もちろん、中華料理屋さん以外の飲食店や、工場などでも必要なケースはあると思います。 https://gentosha-go.com/articles/-/30464
  4. 4.LPガス業界の現況について: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/carbon_neutral_car/pdf/002_06_00.pdf
  5. 5.https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/kihon_seisaku/gas_system/pdf/01_05_00.pdf
  6. 6.https://gline-fukui.com/faq/gasEquipment/waterHeater/entry-54.html