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【エネルギー業界】LPガス基礎part2 供給設備編

TIG DXユニット真野です。業界ドメインに詳しくなろうというテーマで、LPガス業界入門編のpart2です。前回の基礎知識編はなるべく幅広く説明しましたが、本記事では供給設備にフォーカスします。

LPガス設備とは

part1で説明したとおりですが、供給設備と消費設備の2つに分類することができます。

LPガス設備

供給設備はLPガス会社側の持ち物(つまり資産)で、消費設備が利用者側の資産です。

少し例外的ですが細かい話をします。消費設備側について業界慣習があり、戸建てでは貸し付け配管、アパートでは無償貸与と言う、LPガス会社側が住宅内のガス管を無償で設置し、代わりに毎月のガス料金に利用料を上乗せして払うようなケースがあります。つまりLPガスの販売業者の所有のまま貸与していることもあります。この辺りは経産省のワーキンググループ改正液石法省令等・取引適正化ガイドライン説明会資料 p7 にも課題感と周知について動きがあります。LPガス料金、月数千円を上乗せ 違約金20万円請求の業界慣行も:朝日新聞デジタル にもわかりやすくまとまっています。LPガス会社の中の方が執筆した書籍を複数読みましたが、LP会社としても好ましいとは思っておらず、ただ商流上、要請されると断るのが難しいという構造があるようです。

続いて、供給設備を構成する主な設備について細かく紹介します。図にあるLPと書かれた容器(ボンベ)、圧力調整器、ガスメータについて触れていきます。図には書いていないですが、ボンベ・ガスメーター間には放出防止器や高圧ホースなどがありますが省略します。

容器

ボンベと(私は)よく言いますが、液石法や高圧ガス保安法では”容器”と呼びます。バルク(比較的大容量のLPガスを蓄えることが可能なタンク)と対比しての、シリンダー容器を略したシリンダーと呼ぶこともあります。50kg”瓶” と言った、瓶をつけて呼ぶこともあります。業界人と話す時は、大体は”容器”と表現すれば問題ないと思います。

この容器ですが、part1 でも話した通り、20kg, 50kgなどのサイズの違いがあります。LPガス業者としてはなるべく大きいサイズを設置したほうが配送コストを抑えることができますが、50kg容器にLPガスが充てんされると90kg近くになり、持ち運びとしては限界サイズになるためか、一般家庭用に使われる上限が50kgとなります。工業用ですと450~500kgもあるようです。

50kg容器の持ち運びは担ぐ方法もありますが、転がす方法も一般的です。また、二輪台車(キャリーや、ネコ車と呼ぶことも)で運ぶこともできます。

二輪台車

二輪台車、現場では ネコ と呼ぶことも多いらしく、一輪車じゃなくてもこう呼ぶのが少し新鮮でした。

ちなみに、家庭用に用いられる容器の素材は、炭素鋼を使用した溶接容器が用いられています。炭素鋼以外だとアルミウム合金製もあるようですが少量です。溶接容器以外だと、継目なし容器や複合容器が存在するようです。海外では、容器が軽い・美観がよい等の理由で、この複合容器(FRP容器(繊維強化プラスチック複合型容器))が選ばれることが増えているそうです。

複合容器

※画像は https://www.kanagawalpg.or.jp/images/201503_p3.pdf より。右側が複合容器です

美観…はわかりませんが、軽いのは良いですね。左は8kg容器で9.6kg、右は7.5kg容器で4.4kgだそうです。どちらも当然、容器だけの重さです。

日本でも中国工業株式会社さんが2020年8月に、プラコンポ 20kg (FRP 製 20 ㎏型 LP ガス容器)発売のお知らせを発表していますので、もしかしたら広がっているのかもしれません(まだ私は見たことがないです)。

容器検査

容器ですが、充てん期限が存在します。充てん期限を超過した場合、再検査をしないと再度ガスを充填できません。20kg, 50kg容器ですと製造から20年未満5年に1度。20年以上経過すると2年に1度検査する必要があります1

充てん期限はガチャガチャ写真ですが、こんな感じで記載されています。平成38年、つまり令和8年、西暦2026年の4月までということがわかります。

充てん期限

通常、LPガス業者では無い我々が気にすることはほとんど無いと思いますが、期限が切れた場合は耐圧検査に回されるか、破棄されることで、安全が保たれています。

検査が終わると、容器に合格年月が 刻印 されます。月→年の順で打刻されるため、下画像の場合は、5-02で2002年5月に検査を受けたことがわかります。

容器の刻印

※画像は https://www.hyogolpg.or.jp/info20131001.html より

容器の固定

容器は転倒・転落の防止のため、チェーンで固定されています。

チェーン

※ 画像は http://www.lpg.or.jp/sp/about_lpg/about_lpg04.html より

1重、2重のルールですが、経済産業省の液石法施行規則及び同規則の機能性基準の運用(例示基準)の一部改正について(自然災害対策:充てん容器の流出防止措置)を見ると、洪水浸水想定区域などにおいて1m以上の浸水が予想される場合は2重にすると言った基準があるそうです。

こういった安全策は何重にも検討・実施されており、安心してガスを使えるありがたみを感じることができます。

圧力調整器

調整器

※画像は https://www.katsuraseiki.co.jp/?page_id=287 にある 桂精機製作所さんのCA8A-BH065Zより

圧力調整器(調整器)は容器の中の高い圧力のガスを、コンロなどの消費設備で利用に適した、低い圧力に下げるための設備です。容器内のLPガスの圧力は0.4~1.2MPa程度で、調整器により2.3~3.3kPaまで下げてくれます。容器と調整器の間は、高圧ホースという特殊な管でつながっています。他にも流量調整機能(整圧、閉塞圧力)などの機能も持っていて、途中でガスが使えなかったり流れ過ぎを防止しています。まさに調整の役目です。

自動切替式(”じきり”と呼ぶことも)の調整器も存在します。これは下図を見るとわかりやすいです。容器が複数系統接続されている場合に、片方が無くなるともう片方に切り替えてくれます。

圧力調整器による切り替え

※画像は https://www.lia.or.jp/Portals/0/images/news/kurashi2020_4.pdf より

自動切替式調整器を設置することのメリットですが、例えば片方のボンベを使い切ったタイミングから、予備側を使い切る間に、容器交換に向かえば必ず1本(方系)の容器が空っぽなので、持ち帰り時に楽(ガソリン代も浮く)があります。必ず両系統(図だと2本)交換するような配送の仕組みでは、持ち帰り残量としてのメリットは無いですが、通常の戸建てでは一般的に使われていると思います。1970年ほどから容器の複数構成+自動切替調整器の組み合わせが多くなったようで、それまではガス切れが日常茶飯事5だったようです。

調整器切り替えの注意としては、必ずしも使用側が完全に0Paになるタイミングで、予備側に切り替わるということではないということです。ゼロ近くまでは利用しますが、圧力が低くなると完全に無くなる前に切り替えられちゃいます。

切り替わりですが、図のように真ん中の表示が「赤色(シグなりあり)」になっていると、予備側の容器から供給されています。「表示無し」は使用側の容器から供給されていることを示しています。矢印の向いている側が使用側です。

他にも、二段式調整器という種類の機器があります。マンションなど高層階にガスを届けるには、中圧に落として各戸の前で低圧に落とすという二段階の減圧の仕組みです。

中圧

圧力について、LPガス(プロパンガス)において高圧・中圧・低圧が存在します。高圧はボンベから高圧ガスを通って、調整器で減圧されるまでです。低圧は一般の消費設備が利用する圧力です。中圧は先程述べた通り、マンションなどの配管が長い場合や、工業用(溶接など)などに利用します。

種類 圧力2
高圧 0.7MPa ~ 1.3MPa
中圧 60kPa ~ 80kPa
低圧 2.3kPa ~ 3.3kPa

この中圧のまま減圧せずガスを利用するパターンにおいては、中圧対応のガスメーターを利用して計測する場合があります。また、この供給圧力によって、係数を変えて利用量を算出するようです。

流量換算

※画像は愛知時計電機株式会社さんの https://www.aichitokei.co.jp/wp/wp-content/uploads/gk-ah-020z-1606.pdf より

上図の例では、1㎥とガスメータ上は表示されていても、例えば60kPaの圧力で供給された場合、1.5922㎥利用したとカウントするということです。

中圧設備

ガスメーター

ガスの使用量を計測するガスメーターについて説明します。

種類

マイコンガスメーター

※画像は http://www.lpg.or.jp/download/pdf/micom_meter_s.pdf より

一般家庭につけられているガスメーターですが、part1でも説明した通り、内部にマイコンが入っており非常に賢い作りになっています。大きくS型、E型の2種類ありますが。それぞれについて説明しますが、機能的には同等です。

  1. S型(マイコンメーターS)
    • ガスの流量を膜式で計測する(下図の左を参考)
    • 消費社宅のガス消費パターンを学習する機能があり、自動的に遮断値を設定してくれる
  2. E型(マイコンメーターE)
    • ガスの流量を超音波で計測する。膜式と異なり計量室が不要なので約半分の大きさとなり小型である
      • 超音波で、一定距離の往復時間の相違から、流速を求め流量を計測します
    • 微量流量でも数秒で計測できるため、漏洩検知など安全性も向上している
    • 機能上はS型と同様

それぞれの継続方法の簡単なイメージは次のとおりです。膜式は直接体積を計測しているイメージです。

計測方法

※画像は http://toma-lpg.com/2017micon_1.pdf より

S型ガスメーターは、KHKS 0733(高圧ガス協会規格)で規格化されています4。KHKは高圧ガス保安協会の略で、KHKSの最後のSはStandardの意味です。6

マイコンメーターにはS型・E型があるというお話をしましたが、さらにS4、SB、E4、EBなどに分かれます。ざっと違いをまとめます。

分類 計測方法 最大流量 規格(すべてKHKS 0751に統合される予定)
家庭用 S型 腹膜式 2.5㎥ KHKS 0733
家庭用 S4型 腹膜式 4㎥ KHKS 0742
家庭用 E型 超音波式 2.5㎥ KHKS 0741
家庭用 E4型 超音波式 4㎥ KHKS 0743
業務用 SB型 腹膜式 6~16 ㎥/h KHKS 0737
業務用 EB型 超音波式 6~16 ㎥/h KHKS 0741

マイコンメーターで調べると、メーカーごとにこういった型番が出てきて混乱するかと思います。家庭用、業務用などの区別ができると混乱も減るかなと思います。

マイコンメーターの名称の系譜

最初に登場するのはマイコンⅠです。1981年ごろに東京ガスさんと松下電器産業さんの共同開発で生まれました。先行で部分的に導入され安全性が高く評価されたため、1987年に全戸普及を図るべく次のような機能を持ったマイコンⅡが発売されました。マイコンⅡは総称のようなもので規格です。6社10型式が申請を出して合格したのを皮切りに広がっていきます。

  1. 異常なガス流量を検知したら遮断する(合計・増加流量遮断)
  2. 異常な長時間使用を検知したら遮断する(継続使用時間遮断)
  3. 微小流量を含むガス流量を、30日継続して検知したら警告表示する(微小漏洩表示)

1989年には、マイコンⅡが一般家庭用に異常検知ロジックを組んだため、業務用に用いられるように改良したバージョンが登場。マイコンB(業務用)、C(大消費者及び、緩加熱型貯湯式湯沸器仕様世帯用)、L(大口消費者用)です。これで大多数のガスメーターをマイコンメーターに置き換えられるようになったとのことです。設置が進むに連れて、機能強化・改善や寸法の統一など、様々な要望が寄せられました。

そこで1994年頃から出てきたのがマイコンSです。Ⅱに比べて追加された機能が主に4つあります。Sはスマートメーターの略だと思います。

  1. 最大流用および最大器具流量を学習結果に基づき設定
  2. メータ上流側の漏れ及び恒久圧力の状態も認知できるように圧力センサーを追加
    • これは配管低圧部側の漏洩検査を省略できるようになり、事業者側のメリットが大きかったとのこと
      • 従来は2年に1回、法定点検で手動で検査していたとのこと
  3. 感震器を内蔵し、震度5相当の地震で遮断
  4. 通信機能
    • Ⅱでは通信機能があるもの、無いものが混在していたため、通信仕様を標準化
    • KHKS 0733 を見る限り、外部端末に接続できる端子などの決まりがあるようです

その後は超音波型の、E型(おそらく電子式のElectronicから)が登場したといった流れです。

交換期限

マイコンメーターですが交換期限が法律で決まっており、10年(6号より大きいと7年3)の期限があります。これは液石法ではなく、計量法で定められています。ガスメーターは供給設備でありLPガス業者側の業務となります。交換のタイミングですがLPガス配送の繁忙期が冬期(寒くなるとガスを使うので当たり前ですね)であるため、閑散期にあたる夏期にメーター交換を行うことが多いようです。

さらりと6号というワードを出しましたが、これは1時間あたりに何㎥を流すことができるかの単位で、号数と呼びます。例えば、2.5号だと2.5㎥/h、4号だと4㎥/hです。この号数は各メーターの型番にもよく利用されます。

ちなみに、都市ガスについては16号より大きいと交換期限が7年となります。こちらも計量法と、都市ガスの1㎥あたりの発熱量から分かります。

まとめ

ざっとLPガスの供給設備について説明しました。設備周りは用語が揺れている気がしたり(ボンベ/容器/シリンダーや、S型/マイコンS/マイコンメーターSなど)、名前の由来が謎(Sってどういう意味なんだろうなど)が多く、調べるのに骨が折れました。

この記事が初学者の取っ掛かりになれば良いなと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

2022.7.13 パート4まで公開されました。