フューチャー技術ブログ

【エネルギー業界】LPガス基礎part3 充填編

はじめに

ご安全に。TIG DXユニットの栗田です。業界ドメインに詳しくなろうというテーマで、真野がLPガス業界の全体像について記載していますが、今回はそのうち充填業務および充填工場について説明します。

都市ガスであれば地面の中に導管を埋設し、その中をガスを通します。しかし、LPガスでは導管インフラを抱える代わりに、調達してきたLPガスを個別の容器に詰め替え、各供給設備に配送します。

この調達してきたLPガスを個別の容器に詰め替えることを、「充填」ひいては充填を行う工場のことを「充填所(充填工場)」と呼称します。

前提:容器(ボンベ)について

一般的にガスボンベなどといわれるものは、液石法1や高圧ガス保安法では「容器」と呼称しますが、 過去の記事 でも触れたように、その形状は複数あります。

例として、20kg容器と50kg容器を横から図示します。

容器は転倒などによってバルブなどが壊れないように措置をすることが液石則3にて記述されており、プロテクタやキャップを付けることが定められています。

LPG容器

LPガス(液化石油ガス)の名前の通り、充填したばかり容器の中には液体の状態(と一部気化した状態)でガスが充填されており、時間経過とともに容器内のガスが気化し、使われていきます。

通常はあくまで自然気化をしたLPガスが各供給設備で使われますが、ガスの使い方によっては、自然気化だけでは間に合わないことがあります。例えば、工場やレストランなど、大量にガスを利用する現場では、液体を強制的に気化させてガスの安定供給を実現させることがあります。

この場合に利用するのが、ベーパライザー(強制気化装置、蒸発器)です。べーパライザーは液体のままLPガスを取り込み、熱交換器によって気化させて排出します。このべーパライザーを利用する場合、通常容器の底にある液体のLPガスを取り出す必要があります。そのため、サイフォン管を取り付けた容器(サイフォン容器、とも)を利用します。

容器の検査

LPガスの容器は、一定期間ごとに検査を受けることが必要です。

容器については容器保安規則24条2で定められており、製造から20年未満の容器は5年に1度、20年以上の容器は2年に1度の検査が必要で、期限が切れるあるいは切れそうになった容器は検査に回されます。

LPガス業者が自社で検査設備を保有している場合は検査設備に回しますが、自社で検査設備を有していない場合、検査を行っている会社に依頼します。破損があるなどで検査に不合格にならない限り再利用可能であり、不合格になるなどした場合、容器は廃棄されます。

検査の工程としては、最初に容器の中の残ガスの回収を行い、LPガスを容器内から抜きます。バルブの取り外しを行った後、耐圧検査・内部検査などを行い、ショットブラスト4を行います。ショットブラスト後、再度外観検査を行い、刻印の打刻と塗装およびバルブの取付を行い、ラベリングを行って出荷となります。

充填所

充填所は容器にLPガスを詰める施設です。

トラックで各需要家(エネルギー業界では供給先のお客様を指す)から回収してきた容器は、そのエリアを取りまとめる充填所に届けられます。充填所に回収された容器は、再度LPガスを詰めて各需要家のもとに届けられます。

充填所に持ち込まられた容器は、トラックの荷台などから人間が降ろします。充填所(あるいは検査場)が扱う容器の数は膨大であるため、トラックの荷台の高さと充填作業場の高さを合わせることで、極力容器を持ち上げず、容器を転がしながら作業できます。充填作業場に移動された容器は、転がす・コンベアで移動させる等によって充填機に投入し、充填をし、取り出します。
充填が終わった容器は、再度トラックなどに積み込まれて出荷されます。

充填工場イメージ

なお、先に説明した容器の検査期限の確認方法の1つとしては、容器を降ろした際に目視で塗装を確認し、期限切れであったら取り除いて検査に回します。
後述する充填機によっては、充填する際に検査期限をチェックして弾けるものもあります。

充填機

充填機は、「計量」に属する設備です。

充填機の足元が計量器になっており、充填機に入れられた容器は重さを測りながら充填されます。ボンベによって個体差があるため「今どの容器をセットされたか」をデータベースから特定し、空の重さを確認します。同時に計量器にかけることによって、その差分から、正味何kgのLPガスがボンベ内に入っているかを見ることができます。容器は充填可能量を超えないように充填され、終わったら次の容器と交換します。

充填機には、手動のもの、全自動のもの、その間の半自動のものなど、複数の種類があります。手動充填機の場合、セルフのガソリンスタンドのようにバルブに充填機をセットして充填します。

全自動充填機になると、バルブをあけ、充填するところまで自動化されます。充填機メーカーの製品によりますが、回転式とよばれる、コンベア上を流れてきた容器を一本ずつ取り込み、充填していく機器などが挙げられます。

LPG手動充填機

手動充填機のイメージ。手前、あるいは横から容器を測りの上に移動させ、重さを測りにながら充填を行います。

LPG全自動充填機

全自動充填機のイメージ。 複数の充填機がターンテーブルの上にのり、ターンテーブル自体が回転します。

ターンテーブルが回転する間に、各充填機は計量を行いながら充填します。

各充填機は、充填が終わった容器を出口で出力し、すぐに次の容器を取り込みます。

関連規格

LPガスという危険物を扱うため、液石法をはじめ、多くの法律や規格に準拠する必要があります。

特徴的なものの1つとして、「防爆」という規格を説明します。

防爆

LPガスという気化する可燃性物質を扱う都合上、LPガスを充填する作業場には、爆発・火災を防ぐために「防爆」という規格が適用されます。爆発・火災は、着火源と可燃物の2つが合わさることで発生しますが、LPガスを充填する工場では前述の充填機などの電気設備が必要なことから、着火源と可燃物のいずれかを完全に除去することはできません。

そのため、可燃性ガスなどを扱う際には、できる限り着火源を漏洩しないような設備の設計を行うことが必要です。

この「着火源を放出しない」ルールを定めたのが、「防爆」です。この防爆処理を定めた設備を「防爆電気設備」といいます。法律としては労働安全衛生法や電気機械器具防爆構造規格など複数存在する他、具体的な指針としてはIEC60079に整合した工場電気設備防爆指針が刊行されています。

特に防爆に関する危険場所は、可燃性ガス・蒸気の放出・漏洩頻度などによって、Zone0・1・2の3つに分類され(数字が小さいほど危険)、危険場所には防爆電気設備の設置が義務付けられます。

防爆電気設備の規格としては、例えば機器内の圧力を高める内圧防爆構造などが挙げられますが、これらの規格を満たさない電子機器は、危険場所から一定距離離れて設置する必要があり、IoT化などの大きなハードルとなります。

まとめ

今回は容器の充填に着目して説明しましたが、可燃性の危険物を扱う都合上、様々な法律が存在します。

初学者の参考と慣れば幸いですが、特に実際に現場を扱う際は、法律周りなど専門家に確認しながら進めることが必要です。

2022.7.13 part4まで公開されました。