フューチャー技術ブログ

PostgreSQLのtimestamp with time zone型とGoのtime.Location

はじめに

TIG真野です。育休明けです。

PostgreSQLには timestamp with time zonetimestamptz: 長いので以後こちらで表記します)型が存在します。一見、タイムゾーン付きで日時データを保持してくれそうな名称ですが、そうではないよという話をさせてください。

timestampz の仕様

PostgreSQLのドキュメント 8.5.1.3. タイムスタンプ には以下のような仕様が書かれています。

  1. timestampzの内部に格納されている値は UTC である
  2. 入力文字列にタイムゾーンが指定されていれば、そのタイムゾーンを元にUTCに変換され保持される
  3. timestampzの値を取得すると、UTCから現行のタイムゾーンに変換されて表示される

1,2 は timestamp with time zone という名称から、書き込み時のタイムゾーンも保持していると勘違いしちゃいがちですが、実際はそうじゃないよと認識すればOKです。理解できました。

個人的には、3は少しややこしいかなと思います。現行のタイムゾーンとは、すなわちDBセッションで有効なタイムゾーンを用いられると考えられ、確かにto_char() で文字列化したときや、 psqlなど一部のクライアントツール(いわゆるテキストフォーマットでやり取りする場合)に対しては正しいです。一方で、jackc/pgx のドライバー経由でDBを利用するクライアントアプリの世界から見ると、これは適用されません(理由を先に書くと、バイナリフォーマットではタイムゾーン情報を送信しないからです)。

timestampz を扱う際の留意事項

ということでGoで jackc/pgx を用いた時に timestampz 型のデータを扱う上で留意すべきことを言い換えてみます。

  • timestampz カラムは、内部的には64bit整数で保持しており、どのタイムゾーンで書き込まれたかは残っていない
  • timestampz カラムをSQLで to_char() で表示する場合はセッションのタイムゾーンが利用される
  • セッションのタイムゾーンは、jackc/pgx がデフォルトで利用するバイナリフォーマットでは、クライアント側に送信されない(その代わり性能は高い)
  • timestampz カラムをGoの time.Time にマッピングした場合に設定されるタイムゾーンは、書き込み時に用いたタイムゾーンでもなく、セッションで有効なタイムゾーンでもなく、time.Time パッケージのタイムゾーンの扱いに準拠する(※少なくても jackc/pgx を使う場合は)

DBサーバにも、Goアプリ側にもタイムゾーンがあり少し混乱しやすいポイントかなと思います。少なくても私は混乱しました。反省と繰り返し防止のため、何がどう作用するか内容を整理して残します。

環境構築

ここから、PostgreSQLに timestampz を含むテーブルを作成し、タイムゾーンを変えたいくつかのパターンで、Goでデータを書き込み・読み込みして挙動を確認していきます。

検証用のPostgreSQLはdocker compose経由で利用します。タイムゾーン TZAsia/Tokyo を指定しています。TZ を指定すると postgresql.conf に設定されシステムデフォルトのタイムゾーンとなります。

version: '3.9'

services:
db:
image: postgres:16.0-bullseye
container_name: pg
restart: always
environment:
POSTGRES_USER: postgres
POSTGRES_PASSWORD: pass
POSTGRES_DB: postgres
TZ: "Asia/Tokyo"
POSTGRES_INITDB_ARGS: "--encoding=UTF-8 --locale=C"
volumes:
- pgdata:/var/lib/postgresql/data
ports:
- "5432:5432"
command: postgres -c log_destination=stderr -c log_statement=all -c log_connections=on -c log_disconnections=on
volumes:
pgdata:

起動します。

docker-compose up -d

クライアントツールはこの記事ではターミナルでログを残したかったので psql を用います(パスワードはブログ用に分かりやすさ優先で環境変数経由でラフに渡しています。本来は ~/.pgpass などを利用すべきかもしれませんが、ここでは簡易さを優先しています)。

psql でセッションで有効なタイムゾーンを表示すると、 Asia/Tokyo であることがわかります。

$ PGPASSWORD=pass psql -h localhost -p 5432 -U postgres -c "select current_setting('timezone');"
current_setting
-----------------
Asia/Tokyo
(1 row)

検証用のテーブル作成

検証用にtimestamp with time zone(timestampz)型を含む event テーブルを用意します。

schema.sql
CREATE TABLE event
(
event_id varchar(4) PRIMARY KEY,
event_at timestamptz NOT NULL
);

psql を用いてDDLを流します。

$ PGPASSWORD=pass psql -h localhost -p 5432 -U postgres -f schema.sql
CREATE TABLE

Go経由でDB操作

Goのアプリ経由で、データの書き込み/読み込みを行ってみます。

データ書き込み

Go経由で event テーブルに2レコード書き込みます。内容は以下です。

イベントID イベント時間
0001 タイムゾーンなし(UTC)で現在日時
0002 JSTで現在日時

ドライバーは jackc/pgx/v5 です。フューチャー技術ブログに関連記事がありますので、よければ参照ください。

package main

import (
"context"
"fmt"
"log"
"time"

"github.com/jackc/pgx/v5"
)

func main() {
ctx := context.Background()

connURL := "postgres://postgres:pass@localhost:5432/postgres?sslmode=disable"
conn, err := pgx.Connect(ctx, connURL)
if err != nil {
log.Fatalf("pgx connect: %v", err)
}
defer conn.Close(ctx)

jstZone := time.FixedZone("Asia/Tokyo", 9*60*60)

args := [][]any{
{"0001", time.Now()},
{"0002", time.Now().In(jstZone)},
}

copyCount, err := conn.CopyFrom(ctx, pgx.Identifier{"event"},
[]string{"event_id", "event_at"}, pgx.CopyFromRows(args))

if err != nil {
log.Fatalf("copy exec: %v", err)
}

fmt.Printf("copy: %d\n", copyCount)

}

実行して以下のような実行結果が出れば登録できました。

>go run .
copy: 2

データ読み込み

続いて読み込みです。Structを用意します。

model.go
package main

import "time"

type Event struct {
ID string
At time.Time
}

読み込みのときはpgx.Connect() を使っていましたが、ここでは pgx.ParseConfig() を利用しています。後々別のオプションを利用するために差分を小さくする目的であり、気にしないでください。

main.go
package main

import (
"context"
"fmt"
"log"
"time"

"github.com/jackc/pgx/v5"
)

func main() {
ctx := context.Background()

connURL := "postgres://postgres:pass@localhost:5432/postgres?sslmode=disable"
config, err := pgx.ParseConfig(connURL)
if err != nil {
log.Fatal(err)
}

conn, err := pgx.ConnectConfig(ctx, config)
if err != nil {
log.Fatalf("pgx connect: %v", err)
}
defer conn.Close(ctx)

rows, err := conn.Query(ctx, "select * from event")
if err != nil {
log.Fatalf("select query: %v", err)
}
defer rows.Close()

for rows.Next() {
var e Event
if err := rows.Scan(&e.ID, &e.At); err != nil {
log.Fatalf("scan: %v", err)
}
fmt.Printf("%s %s\n", e.ID, e.At.Format(time.RFC3339))
}

}

タイムゾーンをUTCにして実行します。timeパッケージのGoDocを見ると、TZ 環境変数があればUNIXシステムではそれを用いるとあるので、切り替えはこちらで行います。

On Unix systems, Local consults the TZ environment variable to find the time zone to use.
https://pkg.go.dev/time#Location

動かすと、 0001はUTC、 0002 はJSTにしたtime.Timeの値をDBに登録したのですが、結果は どちらもUTCになっていることがわかります。

$ TZ=UTC go run .
0001 2023-10-21T12:04:20Z
0002 2023-10-21T12:04:20Z

OSがWindowsの場合は TZ 環境変数を読み込んでくれなかったので、tzutilコマンドで切り替えます。こちらも当然結果は同じく、2レコードとも、AtフィールドがUTCのタイムゾーンとなっていることが確認できます。

# UTCにタイムゾーン切り替え
$ tzutil /s "UTC"

$ go run .
0001 2023-10-21T12:04:20Z
0002 2023-10-21T12:04:20Z

# もとに戻す(JSTの場合)
$ tzutil /s "Tokyo Standard Time"

今度はタイムゾーンをJSTに登録すると2レコードともJSTのタイムゾーンになることが確認できます(Windows側の実行例は割愛します)。

$ $ TZ=Asia/Tokyo go run .
0001 2023-10-21T21:04:20+09:00
0002 2023-10-21T21:04:20+09:00

つまり、最初に書いた挙動をすることがわかります。

  • timestampz カラムをGoのアプリで読み取りする時は、Go側のタイムゾーン設定に依存する(環境変数 TZ や端末のタイムゾーンなど、time.Timeパッケージの仕様の値が用いられる)
  • DBのセッションで有効になっているタイムゾーンが、Goアプリの time.Time のタイムゾーンで利用されるわけでもない
  • まして、書き込み時に利用したタイムゾーンが使われるわけでもない

接続URLにタイムゾーンを設定すると?

ドライバーによっては、DBを接続時にタイムゾーンを渡せるものもあります(例えばPostgreSQLのJDBCドライバーも -Duser.timezone=Asian/Tokyo で渡せるようです)。pgx の場合は次のような RuntimeParams を利用することで、セッションのタイムゾーンを変更できます。

例としてシンガポールのタイムゾーンを指定して結果がどう変わるか確認します。念のためセッションのタイムゾーンが本当に変わった確認するため、SELECT句に current_setting('timezone') を追加もしています。

type Event struct {
ID string
At time.Time
+ TZ string
}

func main() {
ctx := context.Background()

connURL := "postgres://postgres:pass@localhost:5432/postgres?sslmode=disable"
config, err := pgx.ParseConfig(connURL)
if err != nil {
log.Fatal(err)
}
+ config.RuntimeParams["timezone"] = "Asia/Singapore"

conn, err := pgx.ConnectConfig(ctx, config)
if err != nil {
log.Fatalf("pgx connect: %v", err)
}
defer conn.Close(ctx)

- rows, err := conn.Query(ctx, "select * from event")
+ rows, err := conn.Query(ctx, "select *, current_setting('timezone') as tz from event")
if err != nil {
log.Fatalf("select query: %v", err)
}
defer rows.Close()

for rows.Next() {
var e Event
- if err := rows.Scan(&e.ID, &e.At); err != nil {
+ if err := rows.Scan(&e.ID, &e.At, &e.TZ); err != nil {
log.Fatalf("scan: %v", err)
}
- fmt.Printf("%s %s %s\n", e.ID, e.At.Format(time.RFC3339), e.TZ)
+ fmt.Printf("%s %s %s\n", e.ID, e.At.Format(time.RFC3339))
}

}

実行します。

$ TZ=UTC go run .
0001 2023-10-21T12:04:20Z Asia/Singapore
0002 2023-10-21T12:04:20Z Asia/Singapore

セッションのタイムゾーンが Asia/Singapore に変わったものの、time.Timeに設定されるタイムゾーンはUTCのまま(time.Timeの仕様で TZ=UTC に設定されたタイムゾーンが利用される)であることが分かります。

接続時のパラメータで指定するタイムゾーンをいい感じに time.Time に設定してほしかったかもしれませんが、残念ながらそのような挙動ではないです。

Goの設定として

timestampz型を扱う上で、time.TimeのタイムゾーンはDB側とは別に設定する必要があるという話をしました。
アプリ内で色々なタイムゾーンが混在すると不具合や、ログで表示される時刻などが乱れることで運用コストも増えてしまうので、通常はアプリ内である設定値に統一した方が良いでしょう。

一律的にGo側のタイムゾーンを変更するには、さきほどの TZ の環境変数を用いるといった手法の他に、以下のように直接ハードコードするという手もあります。

func init() {
time.Local = time.FixedZone("Asia/Tokyo", 9*60*60)
}

ただ、上記の手法だとtutuzさんのGoでJSTのタイムゾーンを扱う方法の記事にあるように、DATA RACEする可能性があるようです。回避するためにブランクimportなどの措置も面倒なので万能の解では無いですが、お手軽ではあります(私もよく利用してしまいます)。

個別対応になるため設定し忘れが怖いですが、プロジェクトルールとして time.In() を設定するという決めにするというのもあります。

var jst = time.FixedZone("Asia/Tokyo", 9*60*60)

func main() {
// ...(中略)...
for _, e := range events {
fmt.Printf("%s %s\n", e.ID, e.At.In(jst)) // Inでタイムゾーンを指定する
}

書き込み時はともかく、読込み時もタイムゾーンを指定しないとならないのは、少し釈然としないところもありますが、忘れないようにしましょう。

FAQ

よく思いつきそうな疑問について、まとめます。

DBセッションで用いるタイムゾーンってどう決まるの?

bisqueさんのPostgreSQLのTimeZoneを理解する が詳しいのでそちらも参照ください。

この記事で簡単にざっくり説明しますと、次の優先度で決まります。

  1. SET TIMEZONE TO 'xxx' で指定された値
  2. コネクション接続時に指定された値
  3. postgresql.confに書かれたデフォルト値

psql などのSQLクライアントとして用いると、DB側のタイムゾーンを利用しているようですが?

確かに、psqlselect current_setting('timezone'); で表示されるタイムゾーンによって、timestampz の表示が変わります。他にも、psqleditDataGripでも同様の挙動でした。

postgres=# select current_setting('timezone');
current_setting
-----------------
Asia/Tokyo
(1 row)

postgres=# select * from event;
event_id | event_at
----------+-------------------------------
0001 | 2023-10-21 21:04:20.445974+09
0002 | 2023-10-21 21:04:20.445974+09
(2 rows)

postgres=# set timezone to 'UTC';
SET
postgres=# select * from event;
event_id | event_at
----------+-------------------------------
0001 | 2023-10-21 12:04:20.445974+00
0002 | 2023-10-21 12:04:20.445974+00
(2 rows)

psql およびその利用ライブラリである libpq の仕様に私は詳しくないですが、おそらく libpq はPostgreのDBサーバとのやり取りを、バイナリフォーマットではなく、テキストフォーマットを利用しています。テキストプロトコルの場合は。DBサーバ側がセッションのタイムゾーンの値を元にtimestampz 型の表示を変えて、その値をクライアントである psql に送信するため、直感的な動作をします。

ちなみに、libpqPGTZ という環境変数で、タイムゾーンを変更できます(SET timezone TO …と等価である とありますが、DB側のログにはSET timezone To … が出てこなかったので、接続時に指定していると思われます)。

環境変数PGTZでのタイムゾーンをUTCにした、psql コマンドを利用する例です。

$ PGTZ=UTC PGPASSWORD=pass psql -h localhost -p 5432 -U postgres -c 'select * from event;'
event_id | event_at
----------+-------------------------------
0001 | 2023-10-21 12:04:20.445974+00
0002 | 2023-10-21 12:04:20.445974+00
(2 rows)

ちなみに、DBeaver 23.2.2 では、set timezone to 'UTC' などをしても timestampz カラムを表示する際に利用するタイムゾーンに変わりはありませんでした(+0900 のまま)。DBeaverはローカルのタイムゾーンを利用するため、もしローカル端末のタイムゾーンと、DBのタイムゾーンが異なる場合は、dbeaver.ini-Duser.timezone=xxx を追加して、タイムゾーンを一致させる必要があるようです。

timestampz だけPostgreSQLのDBサーバからテキストフォーマットで受け取れば、セッションのタイムゾーン付きで受信できるため、それを元に time.Time にタイムゾーンを指定すればよいでは?

同じことを思ったのですが、Scanning of timestamp without time zone forces UTC #924 を読んだところ、いくつか課題があるようです。

  • PostgreSQL側で持つタイムゾーンと、クライアント側で持つタイムゾーンに互換性があるとは限らない
  • 夏時間のため単純にテキストから時刻に変換すると、壊れる可能性がある

これらの理由のため、対応は難しいようです。PRコントリビュートチャンスかと思いましたが、やはり簡単ではないですね…。

DB接続時のセッションで有効なタイムゾーンってGoアプリの場合、どこに影響するの?

セッションのタイムゾーンを、DBから取得したtimestampzの列データをtime.Timeに適用してくれないなら、どこに影響するのかという疑問ですよね。

最もわかりやすい影響しそうな箇所は、「文字列」↔ timestampz にSQL 側で変換を行う場合でしょう。

具体例をあげると、SQL側で以下のような timestampz の項目を to_char で文字列に変換する場合には、セッションで有効なタイムゾーンが利用されます(この例だと Asia/Tokyo を利用していますね)。

$ PGPASSWORD=pass psql -h localhost -p 5432 -U postgres \
-c "select event_id, to_char(event_at, 'YYYY-MM-DD HH24:MI:SS') from event;"
event_id | to_char
----------+---------------------
0001 | 2023-10-21 21:04:20
0002 | 2023-10-21 21:04:20
(2 rows)

同様にGo側から日時情報を文字列で渡し、SQL側でパースしてtimestampzカラムに登録するような処理フローを行うと影響を受けるでしょう。

そのため、DBデフォルトのタイムゾーンや、DB接続時に指定するタイムゾーンは、Goアプリケーション側で利用するタイムゾーンと合わせることは必ず行うべきだと思います。to_date()to_char() を将来に渡って必ず用いないという保証はないと思うからです。

DB接続セッションのタイムゾーン値を利用してクエリ結果を time.Time 型のフィールドにマッピングするときに自動で設定する実装をしたい

pgxにも同じような旨のIssueである、How do you set the timezone connection variable? #520 が上がっていますが、少なくてもpgxにはそのような機能は無いようです。あまり探していませんがそういったライブラリが無いような気がします(みんな、 TZ で指定するか、 time.Local に設定している?)。pgxは拡張性が高いパッケージなので、下回りを操作すれば実現できるかもしれませんが、私は試していません。こうやれば良いよと言うのがあればぜひ教えてください。

select current_setting('TIMEZONE') で取得したタイムゾーンを、time.In() に設定して欲しい気持ちはよくわかります。

go-sql-driver/MySQL みたいな loc=Asia%2FTokyo” オプションは無いの?

自信がなくなってきましたが、少なくても jackc/pgx については、私が探した範囲では見つけられませんでした。

まとめ

  • timestamp with time zone(timestampz) 型はUTCでデータを保持する
  • セッションで利用されるタイムゾーン(DBデフォルトのタイムゾーンや接続文字列で指定した値など)は、少なくても pgx を利用する限りにおいては利用されず、 time.Location のタイムゾーンが設定される。別のタイムゾーンにしたい場合は、一般的には環境変数TZを用いるか、time.Location の値を書き換えるか、個別に time.In() でタイムゾーンを書き換える必要がある
  • 通常は、DB側のタイムゾーンと、Goアプリ側の time.Time が利用するタイムゾーンを一致させておくと良い

参考