はじめに
Mypy や Pyright は Python の静的解析ツールとして有名ですが、これら2つに解析情報でどのような違いがあるのかわからなかったので、実験することにしました。Pyright は Mypy に比べて後発のプロジェクトですが、性能面で優れているなどとして徐々に注目を集めています。
解析以外での比較はこちらが参考になります。
実験概要
Mypy、Pyright はともに reveal_type(expr) という機能があります。これを解析対象のコードに挿入すると、実行時点での expr の型情報を表示できます。Mypy、Pyright の両者で同一コードを解析し、その結果を比較します。以下、コード中ではコメントで reveal_type の結果を記録し、reveal_type 自体の記述は省略します。
実験 1: 再代入
a に型の違う値を再代入しています。
- Mypy は 1 行目の代入によって
a の型を builtins.int に確定させるため、2 行目の代入は型の違いで失敗します。これは Python 本来の挙動とは異なりますが、暗黙の変換がないため型チェックの観点からは安全です。
- Pyright はリテラルを別の型に変換せず、リテラルのままで表現しています。また、代入によって型が変わっても、特別問題視はしないようです。
実験 2: オーバーライド
戻り値型の異なるメソッドをオーバーライドしています。Java などのオーバーライドはシグネチャの一致が求められますが、Python ではこのようなオーバーライドが可能です。Mypy では、Child.override はエラーになりますが、Pyright ではエラーになりません。
実験 3: 戻り値の型推論
引数の型から推論をすれば func は明らかに (int) -> int となりますが、Mypy は推論しないようになっており、戻り値の型が Any になります。
実験 4: 戻り値の型チェック
実験 3 の関数に戻り値の型をヒントとして与えています。すると先ほどとは違い、両者ともエラーを出すようになりました。Mypy もヒントがある場合には推論して整合性のチェックを行うようです。
実験 5: タイプナローイング
if 文の分岐によって a の型が変わる例です。
- Mypy は 5 行目でエラーが出ました。実験 1 と同様に 3 行目で
a の型が builtins.int に確定しているためです。
- Pyright はエラーが出ません。分岐ごとに
a の型を独立に判断し、戻り値の段階ではこれらの和を取っています。このような技術は Pyright のドキュメント内で Type Narrowing として紹介されています。
実験 6: タイプナローイング(到達不能な分岐がある場合)
実験 5 の if 文に到達しない分岐 (else) を追加します。
- Pyright では 6 行目で
flg の型を Never としています。bool は True と False の 2 値しかないため、上 2 つの分岐で消費し、else 内に到達する flg は存在しないことを表しています。こちらも Pyright のドキュメント内で Type Checking Concepts として紹介されています。
結論
Mypy と Pyright では型情報の用途が違う印象を受けます。Pyright は Python の挙動を極力トレースした上で、入力補完など利便性を高める機能に必要な情報を、型ヒントや型推論を用いて特定しているように見えます。対照的に、Mypy はヒントなしでの型の異なる代入を禁止するなど、Python とは異なる型システムを導入し、その中で厳密なコーディングを求めるような設計になっていそうです。個人的には、両者に優劣があるわけではなく、ユースケースによって使い分けが存在するという言い方がしっくりきています。
参考
https://blog.abarabakuhatsu.com/changed_python_type_checking_tool_from_mypy